資本市場の機能強化や国全体の最適な資金フローの実現のため、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが導入されています。
資本市場の機能の発揮、企業価値の向上と収益向上の果実を家計にもたらすという好循環のために、投資家の適切な投資判断、投資家と企業との建設的な対話を促していくような企業情報の開示・提供が重要です。このような観点から、企業情報の開示・提供の在り方について再検討が行われました。
1.記述情報(有価証券報告書)の見直し
(1)ガバナンス情報の拡充(2019年3月期から適用)
①役員報酬に係る情報(2019年3月期から適用)
a)報酬プログラム
報酬決定・支給の方法やこれらに関する考え方を具体的にわかりやすく記載します。
・固定報酬・短期業績連動報酬・中長期業績連動報酬のそれぞれの算定方法
・固定報酬と短期・中小期業績連動報酬の支給割合
・役職ごとの支給についての考え方
・役員報酬の算定方法にKPI等の指標が関連付けられている場合、その指標と指標の選定理由、業績連動報酬への反映方法
・報酬総額等を決議した株主総会の年月日及び決議内容
b)報酬実績
実績と報酬プログラムが整合的か等を確認できるように記載します。
・登記の報酬額に決定した理由、当期のKPIの目標と実績の達成度
・固定報酬と業績連動報酬の支給割合の実績、支給された報酬の状況
c)報酬決定の枠組み
報酬決定プロセスの客観性・透明性のチェックを可能とするために記載します。
・算定方法の決定権者、その権限や裁量の範囲
・報酬委員会がある場合には、その位置づけ・構成メンバー
・取締役会・報酬委員会の報酬決定に関する具体的活動内容
②政策保有株式に係る記載事項(2019年3月期から適用)
・純投資と政策保有株式の区分の基準や考え方
・政策保有に関する方針、目的、効果
・売却・買い増しした政策保有株式のそれぞれの理由等
・個別の政策保有株式の保有目的・効果
・個別銘柄の開示(60銘柄)
・提出会社が政策保有株式として株式を保有している相手方が、当該提出会社の株主となっている場合、当該相手方が保有している株式
(2)記述情報の充実(2020年3月期から適用)
①記述情報が提供するもの
・投資家が経営者の視点から企業を理解するための情報を提供
・財務情報全体を分析するための文脈を提供
・企業収益やキャッシュ・フローの性質や、それらを生み出す基盤についての情報を通じ、将来の業績の確度を判断するうえで重要な情報を提供
②記述情報に充実に係る開示のポイント
・経営方針・経営戦略等
経営環境(企業構造、市場状況、競争優位性、主要製品・サービス等)についての経営者の認識を含め事業の内容と関連付けした記載
・事業等のリスク
顕在化する可能性の程度や時期、事業への影響、リスク対応策等の説明
・会計上の見積もり及び当該見積もりに用いた仮定
不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識等の記載
③「記述情報の開示に関する原則」の概要
2019年3月19日にプリンシプルベースのガイダンスが公表されました。
a)目的
記述情報の中でも、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報を中心に、有価証券報告書における開示の考え方を整理することにより、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取り組みを促し、開示の充実を図る
b)位置づけ
・本原則は新たな開示事項を加えるものではないが、企業において本原則に沿った望ましい開示に向けた取り組みが進められることが期待される
・本原則に対応した開示例の公表により、好事例を全体に広げるとともに、好事例を本原則に反映することも検討する
④「記述情報の開示に関する原則」総論の概要
・経営方針、業績評価、経営リスク等の議論の適切な反映やディスクロージャーに関する基本方針の提示
・情報の重要性のディスクロージャーへの適切な反映
・成長投資、資本コスト等に関する議論並びに今後の方向性の反映
・震度あるセグメント情報の開示
・よりわかりやすい開示
(3)監査関係の情報の拡充(2020年3月期から適用、一部2019年3月期から適用)
①監査役会等の活動状況(2020年3月期から適用)
・監査役会等の開催頻度、主な検討事項
・個々の監査役等の出席状況
・常勤監査役の活動
②会計監査に関する情報
(2019年3月期から適用)
・企業が適正な監査の確保に向けて監査人と行っている取り組み
・監査役会等による監査人の選任・再任の方針及び理由
・監査人監査の評価
(2020年3月期から適用)
・監査人の継続監査期間
・監査業務と被監査業務に区分したネットワークベースの報酬額・業務内容
③総覧性の向上
(2019年3月期から適用)
・監査人の解任・不再任の方針
・監査役会等が監査報酬額に同意した理由
・監査人の業務停止処分に係る事項
2.監査報告書の見直し(KAMの導入)
(1)監査報告書の透明化
①監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から
・特別な検討を必要とするリスクまたは重要な虚偽表示のリスク
・経営者の判断を伴う事項に対する監査人の判断の程度
・当年度において発生した重要な事象または取引が監査に与える影響
等について考慮したうえで、特に注意を払った事項を決定する。
②当該事項からさらに当年度の財務諸表監査において職業的専門家として特に重要であると判断した事項を絞り込み、「監査上の主要な検討事項」を決定する。
(2)監査人の交代に関する説明
企業及び監査人は、監査人の交代理由について実質的な内容を記載します。
例として、監査報酬や会計処理に関する見解の相違が挙げられています。