投稿者「admin」のアーカイブ

監査役及び監査役会の役割・責務について~会社法とコーポレートガバナンス・コード

 

監査役及び監査役会の役割と責務については、会社法の定めとコーポレートガバナンス・コードにおける記載があります。

 

1.会社法の定め

(1)監査役の資格

監査役の資格については、「監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与若しくは執行役を兼ねることができない」としています。

 

また、「監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない」としています。

 

社外監査役とは、以下のすべての要件を満たすものです。

 

 

① その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。

 

② その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。

 

③ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。

 

④ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。

 

⑤ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

 

 

(2)監査役の権限

監査役は、取締役の職務の執行を監査します。そのために必要な権限が与えられています。

 

① 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます。

 

② 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます。

 

③ 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができます。

 

④ このほか、会計監査人の選解任や報酬についての権限があります。

 

 

(3)監査役の義務

監査役は監査報告書を作成しなければなりません。このほか、以下の義務が課されています。

 

① 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければなりません。

 

 

② 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければなりません。

 

 

③ 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければなりません。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければなりません。

 

 

④ 監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表等も行います。

 

2.コーポレートガバナンス・コードの記載

 

コーポレートガバナンス・コードでは、原則と補充原則に、監査役及び監査役会の役割として以下の記載があります。

 

① 株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断

 

② 能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切な意見

 

また、常勤監査役の情報収集力と社外監査役の強固な独立性を有機的に組み合わせて実効性を高めることや社外取締役との連携が求められています。

 

3.会社法とコーポレートガバナンス・コードの関係

 

コーポレートガバナンス・コードは、会社法の規程を踏まえて、監査役及び監査役会の活動の実効性をより高めるために必要な基本的な事項や心構えについて記載しているということができます。
会社法で仕組みを形作り、コーポレートガバナンス・コードでその実効性を要求しているということができます。

 

特別目的の財務諸表の監査~「監査基準委員会報告書800」より

 

1.「監査基準委員会報告書800」の目的

(1)「監査基準委員会報告書800」(以下、本報告書)は、特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査において、 他の監査基準委員会報告書を適用する際に特に考慮すべき事項について、実務上の指針を提供するものです。

監査基準委員会報告書805「個別の財務表又は財務諸表項目等に対する監査」は、個別の財務表又は財務諸表項目等を対象として監査を実施する場合において特に考慮すべき事項について、実務上の指針を提供するものです。

 

なお、本報告書において定められていない事項及び定義等については、他の監査基準委員会報告書が適用されます。

 

2.適用の前提

(1)本報告書は、監査の対象が特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された完全な一組の財務諸表であることを前提として記載されています。

 

(2)本報告書は、他の監査基準委員会報告書の要求事項に加えて適用されることを前提としています。

また、本報告書は、個々の監査業務に関連して特に考慮すべき事項を網羅的に提供するものではありません。

 

3.監査人の目的

本報告書における監査人の目的は、特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査において他の監査基準委員会報告書を適用する際に、以下に関連して特に考慮すべき事項に適切に対処することです。

 

(1) 監査契約の締結

(2) 監査の計画と実施

(3) 意見の形成と監査報告

 

4.本報告書における用語の定義

 

 (1) 「特別目的の財務諸表」

特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成される財務諸表をいいます。

なお、監査基準では、「特別目的の財務諸表は、特定の利用者のニーズを満たすべく特別の利用目的に適合した会計の基準に準拠して作成された財務諸表」と説明されています。

 

 (2) 「特別目的の財務報告の枠組み」

特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすように策定された財務報告の枠組みをいいます。

監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」第12項(13)において、 財務報告の枠組みには、適正表示の枠組みと準拠性の枠組みがあることが記載されています。

 

監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」より抜粋

(13) 「適用される財務報告の枠組み」-財務諸表の作成と表示において、企業の特性と財務諸表の目的に適合する、又は法令等の要求に基づく、経営者が採用する財務報告の枠組みをいう。

 

「適正表示の枠組み」は、その財務報告の枠組みにおいて要求されている事項の遵守が要求され、かつ、以下のいずれかを満たす財務報告の枠組みに対して使用される。

 

財務諸表の適正表示を達成するため、財務報告の枠組みにおいて具体的に要求されている以上の開示を行うことが必要な場合があることが、財務報告の枠組みにおいて明示的又 は黙示的に認められている。

 

財務諸表の適正表示を達成するため、財務報告の枠組みにおいて要求されている事項か らの離脱が必要な場合があることが、財務報告の枠組みにおいて明示的に認められている。 このような離脱は、非常に稀な状況においてのみ必要となることが想定されている。

 

「準拠性の枠組み」は、その財務報告の枠組みにおいて要求される事項の遵守が要求され るのみで、上記①及び②のいずれも満たさない財務報告の枠組みに対して使用される。

 

(3)「財務諸表」

本報告書において、財務諸表とは、関連する注記を含む完全な一組の特別目的の財務諸表を意味します。

関連する注記は、通常、重要な会計方針の要約及びその他の説明情報から構成されます。

財務諸表の様式と内容及び完全な一組の財務諸表が何により構成されているかは、適用される財務報告の枠組みによって定められています。

 

5.特別目的の財務諸表の例

 

(例1)

①監査対象:会計監査人設置会社以外の会社が作成する完全な一組の財務諸表に対する任意監査

②利用者:銀行取引約定書に基づき金融機関が利用

③会計の基準:中小企業の会計に関する基本要領に基づいて策定した会計の基準

④財務諸表の構成:BS、PL、株主資本等変動計算書並びに個別注記表並びにその附属明細書

⑤特別目的:財務諸表の利用者のニーズを念頭において、会計処理の方法を選択している

⑥準拠性:会社計算規則に基づいている

 

(例2)

①監査対象: 融資を受けるために、金融機関からの要請に基づいた任意監査

②利用者:金融機関

③会計の基準: 金融機関との合意に基づく基準

④財務諸表の構成:BS、PL、重要な会計方針及びその他の注記

⑤特別目的:企業会計の基準に従っているが、表示および開示項目は、金融機関により指定されている。

⑥準拠性:注記は、指定項目のみ

 

(例3)

①監査対象: 会社法の大会社が、取引先との契約において定められている取り決めに基づいて作成された財務諸表に対する任意監査

②利用者:取引先

③会計の基準: 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準

④財務諸表の構成:BS、PL、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書、重要な会計方針、その他の注記及び附属明細書

⑤特別目的:会社計算規則と財務諸表等規則の組み合わせ

⑥適正表示:BS、PL、株主資本等変動計算書は会社計算規則、キャッシュ・フロー計算書は財務諸表等規則

 

 

「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」より

日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、平成 29 年5月 15 日付で経営研究調査会研究報告第 59 号「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」(以下、「本研究報告」)を公表しました。

 

本研究報告は、長期志向の機関投資家を念頭に、投資意思決定及び対話のための情報ニーズや、投資家による企業価値評価と投資家対話に有効な情報開示(非財務情報を含む。)の在り方について検討し、取りまとめたものです。

 

 

1.企業報告をめぐる近年の動向と課題

 

資本市場全体において、長期的に最適な資源配分を通じて持続可能な価値創造が実現されるためには、投資家が企業の開示情報を基に長期的視点から企業価値を評価し、投資家行動につなげることができることを前提として、さらに、投資家と企業は対話を通じて相互理解を深めることも求められています。対話の基礎となる情報を提供するという意味でも、企業報告は重要な役割を担っています。

 

我が国では、統合報告書を発行する企業が年々増加しており、中長期的な企業価値の説明を通じて、長期志向の投資家に対する魅力を高めていくことを目指している企業が増えています。

しかしながら、非財務情報を効果的に用いて中長期的な企業価値を伝達する企業報告の実務について、企業側も投資家側も課題があると認識しており、本研究報告では、投資家による長期的視点に立った投資意思決定行動に影響を及ぼすことのできる企業報告実務のポイントを検討しています。

 

 2.投資家行動と情報ニーズ

 

本研究報告では、長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告の在り方を検討対象として、ファンダメンタルズ(財務状況や企業業績等の株式の本源的価値を決定付ける基礎的要因)を重視して投資行動を行う機関投資家を企業報告の想定利用者として位置付けて、その情報ニーズを分析しています。

 

企業分析や評価の手法は様々ですが、その最終的な目的は、投資によって得られる財務リターンとリスクの評価に役立てることにあると考えられます。

長期志向の機関投資家の情報ニーズと、当該ニーズを満たす開示の特徴は、以下のとおり整理されるとしています。

 

長期志向の機関投資家の情報ニーズ

・企業価値の財務的価値につながる情報

・統治の質を表す情報

 

長期志向の機関投資家のニーズを満たす開示の特徴

・ 企業固有の状況を的確に表す開示

・ 経営者によるコミットメントを示すとともに、その進捗や成果についての評価ができる開示

・ 投資家の信頼を高める包括的かつ論理的な開示

・ 長期的視点に立った評価を可能とする開示 ・ 効率的な情報利用を可能とする開示

 

3.長期的視点に立った投資家行動における有用性を高める企業報告

 

(1)長期志向の機関投資家が重視すると考えられる情報

1-1 企業価値の財務的評価につながる開示

企業報告においては、投資家による企業価値評価のプロセスを理解することが重要で、その財務的評価を可能にする非財務情報のポイントを押さえる必要があります。そのポイントは下記のとおり整理されます。

 

① 生産性、成長性及びリスク評価に資する開示

② 企業の将来像(ビジョン、ビジネスモデル)と背景要因の提示

③ 現在と将来をつなぐ「戦略」(資源配分の方針及び計画)の開示

④ 資本政策の説明

 

1-2 統治の質を表す情報

長期志向の機関投資家は、企業との対話や株主行動の前提として、投資先企業の経営及び統治の質に関する情報を重視します。投資家は「企業の統治の質が担保されていることについての確信を得たい。」と考えていて、そのような観点から、以下のポイントを改善に向けた方向性として挙げています。

 

① 長期価値創造を実現する観点からの体系的な説明

② ビジネスモデルや戦略との整合性確保

③ 運用状況の報告

 

(2)情報の有用性を高める開示の特徴

2-1 企業固有の状況を的確に表す開示

企業の財務的価値は企業のビジネスモデルや戦略に依存します。

 

本研究報告では、企業固有の状況を的確に表す開示を実現するためのポイントとして、以下の各点を挙げています。

 

① 企業のコンテクストとの結合性

② 重要性の判断と開示

③ 比較可能性との関係

 

2-2 経営者のコミットメントが示され、その進捗と成果が評価できる開示

中長期的な企業価値を判断するための情報として、戦略に関する情報が必要です。戦略との関係における KPI の意義、効果的な KPI の開示の在り方及び課題について、以下の各点が改善に向けたポイントとなります。

 

① 企業の業績及び戦略の主要な要素を反映したKPIの開示

② 財務的指標と非財務的指標との効果的な組合せ

③ 客観的かつ継続的に測定可能であること

④ 経営者からの背景の説明や分析及び評価結果の開示

 

2-3 投資家の信頼を高める包括的かつ論理的な開示

投資家は、論理的に構成された報告書、企業の全体像を表す開示を求めており、現状の企業報告について論理性や包括性について課題があるとの認識を持っています。

開示の論理性、包括性を高めることによって投資家の信頼を高めることが重要となりますが、その上で、以下の各ポイントが鍵となるとしています。

 

① 企業活動の全体像を映し出す包括的な開示

② 数字による裏付け

 

 

2-4 長期的視点に立った評価を可能とする開示

長期的視点に立って企業価値を評価する上で、企業から開示される情報の時間軸も 大事な要素であり、投資家の投資判断に長期的な課題を織り込めるようにする必要があります。 投資家が中長期的な評価をする上で有用な開示情報は、以下に示すような、目標や行動計画策定に当たっての前提や策定プロセスなど、経営の基本方針や意思決定に関わる情報です。

 

① 企業ビジョン及び戦略方針の開示

② 時間軸の明確化

 

2-5 効率的な情報利用を可能とする開示

幅広い投資家に共通的なニーズを考えれば、企業は主たる報告書を決定し、その中に重要情報を網羅し、特定の利用者が求める詳細情報や特定課題に関する情報については、ウェブサイト等の媒体を活用して伝達する方法が望ましいとしています。

 

① 報告媒体の体系化

② 主たる報告書の要素と構成

③ 論理性と簡潔性

 

4.効果的な企業報告を実現できる環境整備

 

指摘された課題と効果的な企業報告を実現するための環境整備に向けた取組を提起しています。

 

(1)企業報告制度:統合的な開示システムの必要性

我が国において開示媒体(開示書類)が多すぎ、情報が分散していて、限られた時間の中で、多種多様の開示媒体から必要な情報を探し出し、拾い出していくことについての実務的な限界を指摘する声が多く、一元化された年次報告書及びこれに付随する詳細な報告書に集約・体系化すべきという指摘もあるとしています。

また、経営方針や戦略の報告を企業報告の中核として捉える考え方は、コーポレートガバナンス・コードの原則主義の企業報告の枠組みと整合的であり、制度開示書類において企業が 重要な非財務情報を開示しやすい環境を整備していくことが重要で、現行制度について、より柔軟な開示が可能な仕組みを検討していく必要があるとしています。

 

(2)投資家行動の変化

今後、企業報告が投資家にとっての有用性を高めていくには、企業が投資家の情報ニーズを理解して報告書を作成できるようにしていく必要があり、あわせて、投資家側からも、自ら必要とする情報や開示の在り方を提示し、問題となる開示行動について改善を促す等の積極的な行動が期待されるとしています。

 

(3)企業報告のフレームワーク・基準整備

投資家ニーズを反映した企業報告のフレームワーク、基準が整備される必要があるとしています。

また、多くのフレームワークや基準があるので、企業が、これらの各基準やガイドラインを全て完全な形で準拠することは難しい状況にあり、包括的な連携・調整に向けた取組が期待されるとしています。

 

有価証券報告書等の情報提供項目・内容が改正されました

平成31年1月31日に、内閣府令第3号「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(以下「本改正」という。)が公布されました。

平成30年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、

 

「財務情報及び記述情報の充実」

 

「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」

 

「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」

 

に向けて、適切な制度整備を行うべきとの提言がなされました。当該提言を踏まえて、有価証券報告書等の記載事項の改正が行われました。

1.財務情報及び記述情報の充実

(1)経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を行うことになります。

 

記載上の注意(30)より抜粋

経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

a 最近日現在における連結会社の経営方針・経営戦略等の内容を記載すること。

記載に当たっては、連結会社の経営環境(例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含め、(27)aの規定により記載した事業の内容と関連付けて記載すること。

また、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容を記載すること。

 

b 最近日現在における連結会社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載すること。

 

(2)事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を行うことになります。

 

記載上の注意(31)より抜粋

事業等のリスク

a 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下a及び(32)において「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう。)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。

記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。

 

(3)会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を行うことになります。

 

記載上の注意(32)(g)より抜粋

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載すること。

ただし、記載すべき事項の全部又は一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該注記において記載した事項の記載を省略することができる。

 

2.建設的な対話の促進に向けた情報の提供

(1)役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載を行うことになります。

 

記載上の注意(57)より抜粋

役員の報酬等

提出会社が上場会社等である場合には、提出会社の役員(取締役、監査役及び執行役をいい、最近事業年度の末日までに退任した者を含む。以下(57)において同じ。)の報酬等(報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったもの(最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書に記載したものを除く。)をいう。)について、次のとおり記載すること。

 

a 届出書提出日現在における提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の内容 及び決定方法を記載すること。

なお、当該方針を定めていない場合には、その旨を記載すること。

提出会社の役員の報酬等に、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の提出会社又は当該提出会社の関係会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等において (「業績連動報酬」という。)が含まれる場合において、業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬等の支給割合の決定に関する方針を定めているときは、当該方針の内容を記載すること。

また、当該業績連動報酬に係る指標、当該指標を選択した理由及び当該業績連動報酬の額の決定方法を記載すること。

提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する役職ごとの方針を定めている場合には、当該方針の内容を記載すること。 (以下、略)

 

b 取締役(監査等委員及び社外取締役を除く。)、監査等委員(社外取締役を除く。)、監査役(社外 監査役を除く。)、執行役及び社外役員の区分(以下「役員区分」という。)ごとに、報酬等の総額、報酬等の種類別(例えば、固定報酬、業績連動報酬及び退職慰労金等の区分をいう。)の総額及び対象となる役員の員数を記載すること。

提出会社の役員ごとに、氏名、役員区分、提出会社の役員としての報酬等(主要な連結子会社の役員としての報酬等がある場合には、当該報酬等を含む。以下「連結報酬等」という。)の総額 及び連結報酬等の種類別の額について、提出会社と各主要な連結子会社に区分して記載すること(ただし、連結報酬等の総額が1億円以上である者に限ることができる。)。(以下略)

 

c 提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名又は名称、その権限の内容及び裁量の範囲を記載すること。

提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定に関与する委員会(提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものをいう。以下「委員会等」という。)が存在する場合には、その手続の概要を記載すること。

また、最近事業年度の提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)及び委員会等の活動内容を記載すること。

 

(2)政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等について開示を求めるとともに、個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大されました。

 

記載上の注意(58)より抜粋

株式の保有状況

提出会社が上場会社等である場合には、提出会社の株式の保有状況について、次のとおり記載すること。

 

a 提出会社の最近事業年度に係る貸借対照表に計上されている投資有価証券に該当する株式のうち保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式の区分の基準や考え方を記載すること。

 

b 保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法を記載すること。また、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容を記載すること。

 

3.情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組

監査役会等の活動状況、監査法人による継続監査期間、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示を行うことになります。

 

記載上の注意(56)より抜粋

a 監査役監査の状況について、次のとおり記載すること。

監査役監査の組織、人員(財務及び会計に関する相当程度の知見を有する監査役、監査等委員又は監査委員が含まれる場合には、その内容を含む。)及び手続について、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。

最近事業年度における提出会社の監査役及び監査役会(監査等委員会設置会社にあっては提出会社の監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては提出会社の監査委員会をいう。)の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等) を記載すること。

 

d 会計監査の状況について、次のとおり記載すること。

(中略)

 

(f)監査報酬の内容等について、次のとおり記載すること。

(中略)

ⅱ 最近2連結会計年度において、提出会社及び提出会社の連結子会社がそれぞれ監査公認会計士等と同一のネットワーク(共通の名称を用いるなどして2以上の国においてその業務を行う公認会計士又は監査法人及び外国監査事務所等(外国の法令に準拠し、外国において、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする者をいう。)を含めて構成される組織をいう。)に属する者に対して支払った、又は支払うべき報酬について、監査証明業務に基づく報酬と非監査業務に基づく報酬に区分して記載すること。この場合において、非監査業務に基づく報酬を記載したときは、当該非監査業務の内容を記載すること。

 

4.公布日等

本改正に係る内閣府令は、平成31年1月31日付で公布・施行されます。

なお、改正後の規定は、以下のとおり適用されます。

(1)平成31年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用(上記「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」欄に記載の項目等)

(2)平成32年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用(上記(1)以外)

※(2)については平成31年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等からの適用可。

 

設備投資をする場合の意思決定の手法

設備投資は、構造変化を伴う長期的な影響を企業に与えます。

 

そのため、1会計期間を前提とした損益計算ではなく、長期のキャッシュベースに基づく意思決定となります。

 

意思決定には、キャッシュ(貨幣)の時間的価値を考慮する方法と考慮しない方法があります。

 

1.キャッシュの時間的価値を考慮した意思決定の方法

 

(1)正味現在価値法

設備投資による支出と、その後の事業から得られる収入の差額を計算して意思決定する方法です。

 

正味現在価値 = 入金額の現在価値合計 - 支出額の現在価値合計

 

入金額、支出額は、時間的価値を考慮したものになります。

 

(2)内部利益率法

設備投資による支出の現在価値への割引額とその後の事業から得られる収入の現在価値への割引額が等しくなる割引率(内部利益率)を計算し、資本コスト率より大きければその設備投資を実行する、という方法です。

 

資本コスト率は、資本の調達コストで、内部利益率は、資金の運用利回りです。

 

(3)収益性指数法

割引後の現金収入額を割引後の投資額で除して、1を超えていれば割引後の現金収入のほうが大きいので、投資を行う方法です。

 

2.貨幣の価値を考慮しない意思決定の方法

(1)回収期間法

投資額から年間の収入額を差し引いて、差額がゼロになるまでの年数が短い投資案を採用する方法です。

投資額を回収した後の収入は考慮しないので、収益性ではなく回収期間の短さという安全性を重視した意思決定ということができます。

 

(2)会計的利益率法

現金収入の合計額と投資額の差額を年数で除した金額が、投資額のどのくらいの割合かを計算して、最も大きな案を選択する方法です。

 

3.現価係数と年金現価係数

現価係数表は、年数と割引率を対応させた表です。例えば、割引率5%の4年目の現在価値を表から算定できます。

 

年金現価係数表は、その年までの現価係数の合計額を表しています。

 

4.設備投資の意思決定における課題

設備投資における最大の問題は、将来データの入手可能性です。将来の収支予測の信頼性ということもできます。

 

経済状況の変動(景気、業界、利子率など)や自然災害などの自社でコントロールできない変動要因があり、将来を正確に予測することは困難です。

 

キャッシュの時間的価値を考慮した方法は、理論的には優れています。しかし、将来の変動が予測できない以上、これだけに頼らずに、安全性も考慮した方法も加味して意思決定を行うことも考慮すべきと考えます。

 

保証債務の整理にあたって~保証人の資力に関する情報における公認会計士による実務

1.研究報告策定の背景

日本公認会計士協会は、2018年12月11日に、中小企業施策調査会研究報告第4号『「保証人の資力に関する情報」における公認会計士による実務』(以下、「本研究報告」)を公表しました。

「経営者保証に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)は、2013年12月に制定され、中小企業・小規模事業者等(以下「中小企業」という。)の経営者による個人保証(以下「経営者保証」という。)の契約時及び履行時等における様々な課題に関して、中小企業、経営者及び金融機関による対応についての自主的自律的な準則として活用されています。

 

ガイドラインは、経営者保証について、保証契約時と主たる債務の整理局面における保証債務の整理(履行等)時とに区分して、それぞれの課題と具体的な解決策について整理しています。

 

本研究報告は、このうち、債務の整理局面における実務を示しています。

ガイドラインでは、保証債務の整理時には、主たる債務者について事業再生等が開始された場合、経営者の帰責性や経営資質等を勘案して一律に経営者の交代を求めないことや、経営者の事業再生等の着手の決断が早く、事業再生の実効性の向上に資するものとして、債権者としても一定の経済合理性が認められる場合には、保証債務の履行・減免に当たって経営者(保証人)に一定の資産を残すことを検討するとしています。

 

 

2.適用範囲

本研究報告は、主たる債務の整理の局面における保証債務の整理に当たって、保証人が自らの資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の正確性について保証人自ら表明保証を行う場面を前提としています。

そのような場面で、公認会計士等が、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に基づき、ガイドラインに関連して保証人が表明保証することとされている保証人の資力に関する情報の信頼性の向上に資するために、合意された手続の業務を行う際の手続等を例示するものです。

 

3.公認会計士等が実施する手続き

ガイドラインの「7.保証債務の整理」の中の「(3) 保証債務の整理を図る場合の対応」 の「③保証債務の履行基準(残存資産の範囲)」 においては、 対象債権者は、保証債務の履 行に当たり、保証人の手元に残すことのできる残存資産の範囲について、必要に応じ支援専 門家(注)とも連携しつつ、以下のような点を総合的に勘案して決定することとされています。

この際、保証人は、全ての対象債権者に対して、保証人の資力に関する情報を誠実に開示し、 開示した情報の内容の正確性について表明保証を行うとともに、支援専門家は、対象債権者からの求めに応じて、当該表明保証の情報の信頼性の向上に資するため、対象債権者に報告することが前提とされています。

 

ア)保証人の保証履行能力や保証債務の従前の履行状況

イ)主たる債務が不履行に至った経緯等に対する経営者たる保証人の帰責性

ウ)経営者たる保証人の経営資質、信頼性

エ)経営者たる保証人が主たる債務者の事業再生、事業清算に着手した時期等が事業の再 生計画等に与える影響

オ)破産手続における自由財産(破産法第 34 条第3項及び第4項その他の法令により破産 財団に属しないとされる財産をいう。)の考え方や、民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費の考え方との整合性

 

本研究報告においては、ガイドラインの上記項目及びQ&Aの関連項目に基づいて、保証人の資力に関する情報について、公認会計士等により合意された手続の業務を行う際の手続を例示しています。

 

(注)支援専門家とは、弁護士、公認会計士、税理士等の専門家であって、全ての対象債権者 がその適格性を認めるものをいいます。

支援専門家の適格性については、当該専門家の経験、実績等を踏まえて、対象債権者によって総合的に判断されます。

ただし、当該専門家が弁護士でない場合には、支援内容が非弁行為とならないように留意する必要があります。

 

4.手続例を利用する際の留意点

 

本研究報告の手続例において示されている手続は、具体的には、公認会計士等は、本研究報告に例示される合意された手続業務契約書及び報告書利用に係る合意書を保証人(又は支援専門家)と締結し、その契約の中で「別紙1 合意された手続」として規定され、また、実施結果報告書(Ⅱ6.(5) 合意された手続実施結果報告書の作成例参照)に「別紙 2 合意された手続及び合意された手続の実施結果」として記載される手続となることを想定しています。

示されている手続はあくまでも一例を示したものにすぎず、業務依頼者及びその他の実施結果の利用者との間で合意された手続について業務実施者が実施することになります。

 

実際の業務実施に当たっては、保証人(業務依頼者)又は支援専門家の状況及び債権者(その他の実施結果の利用者)の求める手続の内容が反映され、事案に応じて適宜柔軟に必要な手続が契約締結時に決定されることとなります。

監査品質の指標に関する定量的情報(AQI)について研究報告が公表されました

 

日本公認会計士協会は、「監査品質の指標(AQI)に関する研究報告」(以下、「本研究報告」)を 2018年11月21日付けで公表しました。

 

AQIは、間接的ではあるものの監査品質に関連する定量的情報であり、監査品質の向上に向けた取組について、上場会社の監査を担う監査事務所が外部に公表する場合や監査チームが被監査会社の監査役等に説明する場合に利用することを想定しているものです。

 

本研究報告は、AQIの選定及び利用にあたって参考となるように、海外における取組状況も踏まえ、AQIの項目例とともにAQIの性質や限界などの留意点をとりまとめています。

AQIの適切な利用により、監査品質の向上に向けた取組状況について外部の利害関係者の理解を深め、建設的な対話に資することを意図しています。

 

1.適用範囲

 

上場会社の監査を担う監査事務所が、監査本質の向上に向けた取り組みについて外部の公表する場合や監査チームの被監査会社の監査役もしくは監査役会、監査当委員会、監査委員会(以下、「監査役等」)の説明する場合に監査品質の指標として用いる項目及びそれを用いる際に参考となる情報を取りまとめたものです。

 

監査品質を直接的に測定することは困難ですが、間接的ではあるものの監査品質に関連する定量情報をAQIとして示すことにより、監査品質の向上に向けた取り組み状況に関する説明に具体性が付与されることを想定しています。

 

2.AQIの項目の考察

 

(1)AQIの性質と利用方法

 

①監査品質とAQIの関係

監査品質に影響を及ぼす様々な要因を監査プロセスへのインプット、プロセス、アウトプットに分類し、更にそれらを監査業務レベル、監査事務所レベル及び国レベルに分けて体系化しています。

また、監査は財務報告制度の重要ではあるが一つの要素であるため、財務報告に関連する背景的要因や利害関係者の相互作用により影響を受けることが説明されています。

下の図は、監査品質の枠組みを説明したものです。

 

 

ア)AQI項目の選定

監査品質を直接測定することは困難であるため、その代替として、監査品質に影響を与えると想定される余韻を選択して定量的に示したものがAQIです。

AQIは、それぞれの監査事務所によって異なるものなので、個々の状況に応じて、監査品質向上のための取組の全体像をバランスよく示す適切な組み合わせとする必要があります。

 

イ)AQIの利用により期待される効果と限界

監査品質に関しての定性的記述だけでは、具体性や比較可能性に乏しいものとなるので、AQIを併せて示すことで、利用者が取り組みの成果を理解するうえで通用であるとしています。

ただし、数値情報だけが独り歩きをしないように、定性的な説明を十分に行うとともに、AQIの意味が適切に理解されるよう工夫することが必要になります。

 

ウ)AQIの開示方法

監査事務所レベルのAQIについては、監査事務所が作成する監査品質に関する報告書等に含めて公表することを想定しています。

 

監査業務レベルのAQIについては、被監査会社の監査役等に報告することを想定しています。

 

②本研究報告におけるAQIの項目

海外の各団体が取り上げているAQIの中から、3団体以上が共通して選択しているAQIを基礎として、我が国の監査法人コーポレートガバナンス・コードの策定過程における議論や我が国及び海外の大手監査法人が開示しているAQIを勘案して、AQIの候補となる項目を示しています。

 

(2)監査事務所レベルAQIの項目

 

①監査事務所の状況

監査事務所の職位ごとの人員構成

監査に従事するパートナー・マネージャーとスタッフとの比率

品質管理業務の人員数

監査業務に従事する常勤の社員及び専門職員の年間の作業負荷の状況

監査事務所内の監査品質に関する意識調査

退職率

 

②人材投資(教育・研修)

研修時間

履修した研修に関するアンケート調査結果

人材交流

 

③監査の結果

外部機関による検査等

監査時事務所における内部検証

独立性に関する検査

規制当局等による処分

 

(3)監査業務レベルのAQIの項目

①監査チームの状況

監査チームの総監査時間及び上位者の関与時間

監査チームメンバーの構成と経験

 

②監査の結果

外部機関による検査等

内部検証

独立性に関する検査

内部統制の不備等の報告

中小企業の非上場株式を引き継ぐときに、納税が猶予・免除される制度~特例事業承継税制について

1.事業承継税制とは

事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、「円滑化法」)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

 

2.非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等

非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等には、租税特別措置法第70条の7の6から第70条の7の8までの各規定による措置(特例措置)と同法第70条の7の2から第70条の7の4までの各規定による措置(一般措置)の2つの制度があり、特例措置については、平成30年1月1日から平成39年(2027年)12月31日までの10年間限定の制度とされています。

 

(1)特例措置

「円滑化法」による都道府県知事の認定を受ける非上場会社の後継者である相続人又は受遺者(以下、「特例経営承継相続人等」)が、

 

被相続人から非上場会社の株式又は出資(以下、「非上場株式等」)を相続又は遺贈(以下、「相続等」)により取得をし、その会社を経営していく場合には、

 

特例経営承継相続人等が納付すべき相続税のうち、非上場株式等に係る課税価格に対応する相続税の納税が猶予され(以下、猶予される相続税額を「特例株式等納税猶予税額」)、

 

特例経営承継相続人等が死亡した場合等には、その全部又は一部が免除されます。

 

そして、特例経営承継相続人等の死亡によって、特例経営承継相続人等から非上場株式等を相続等により取得した者についても、一定の要件を満たすことにより、「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等」の適用を受けることができます。

 

ただし、免除されるまでに、特例対象非上場株式等を譲渡するなど一定の場合には、特例株式等納税猶予税額の全部又は一部について納税の猶予が打ち切られ、その税額と利子税を納付する必要があります。

 

(2)一般措置

円滑化法の認定を都道府県知事から受ける非上場会社の後継者である相続人又は受遺者(以下、「経営承継相続人等」)が、

被相続人から非上場株式等(一定の部分に限る。)を相続等により取得をし、その会社を経営していく場合には、

 

経営承継相続人等が納付すべき相続税のうち、非上場株式等に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されます(猶予される相続税額を「株式等納税猶予税額」という)。

 

この株式等納税猶予税額は、経営承継相続人等が死亡した場合等に該当したときには、その全部又は一部が免除されます。

 

そして、経営承継相続人等の死亡によって、経営承継相続人等から非上場株式等を相続等により取得した者についても、一定の要件を満たすことにより、「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等」の適用を受けることができます。

 

ただし、免除されるまでに、対象非上場株式等を譲渡するなど一定の場合には、株式等納税猶予税額の全部又は一部について納税の猶予が打ち切られ、その税額と利子税を納付しなければなりません。

 

3.特例措置と一般措置の主な違い

特例措置と一般措置の制度の主な違いは次の表のとおりです。

 

 

特例措置

一般措置

事前の

計画策定等

5年以内の特例承継計画の提出
【平成30年4月1日から平成35年(2023年)3月31日まで】

不要

適用期限 10年以内の相続等・贈与
【平成30年1月1日から平成39年(2027年)12月31日まで】

なし

対象株数 全株式

総株式数の最大3分の2まで

納税猶予割合 100%

相続等: 80%、贈与:100%、

承継パターン 複数の株主から最大3人の後継者

複数の株主から1人の後継者

雇用確保要件 弾力化

承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要

事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 譲渡対価の額等に基づき再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額を免除

なし
(猶予税額を納付)

相続時精算課税の適用 60歳以上の贈与者から20歳以上の者への贈与
(租税特別措置法第70条の2の7等)

60歳以上の贈与者から20歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与
(相続税法第21条の9・租税特別措置法第70条の2の6)

 

(注)

1 対象株数:議決権に制限のない株式等に限ります。

2 雇用要件:雇用確保要件を満たさなかった場合には、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第20条第3項に基づき、要件を満たさなかった理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、その確認を受ける必要があります。
なお、当該報告書及び確認書の写しは、継続届出書の添付書類とされています。

 

消費税における適格請求書等保存方式(インボイス方式)とは何でしょうか

1.適格請求書等保存方式

2023年10月1日から、複数税率に対応した消費税額の仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式、いわゆる、「インボイス方式」が導入されます。

適格請求書等保存方式の下では、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。

 

2.適格請求書

売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

 

3.適格請求書発行事業者登録制度

適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」(以下「登録申請書」)を提出し、登録を受ける必要があります。
なお、課税事業者でなければ登録を受けることはできません。

また、登録申請書の提出を受けた税務署長は、登録申請書の審査を行った後、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を登載して登録を行います。

税務署長は、登録を受けた事業者に対して登録番号を通知します。

 

4.適格請求書発行事業者の義務等(売り手側の留意点)

適格請求書発行事業者には、適格請求書を交付することが困難な一定の場合を除いて、取引の相手方(課税事業者に限ります。)の求めに応じて、適格請求書を交付する義務及び交付した適格請求書の写しを保存する義務が課されます。

なお、適格請求書には、区分記載請求書等(注)に必要とされる記載事項に加え、次の事項の記載が必要となります。

 

  • 登録番号

 

  • 消費税額等及び適用税率

 

(注) 平成31年(2019年)10月1日から平成35年(2023年)9月30日までの間、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等をいいます。

5.仕入れ税額控除の要件(買い手側の留意点)

適格請求書等保存方式の下では、適格請求書などの請求書等の交付を受けることが困難な一定の場合を除いて、一定の事項を記載した帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります。

 

なお、適格請求書等保存方式導入後は、免税事業者や消費者など適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る消費税額を控除することができなくなります。

 

ただし、一定の要件を満たす場合には、一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。

 

6.税額の計算方法

2023年10月1日以降の売上税額及び仕入税額の計算については、以下の(1)又は(2)を選択することができます。

 

(1) 適格請求書に記載のある消費税額等を積み上げて計算する「積上げ計算」

 

(2) 適用税率ごとの取引総額を割り戻して計算する「割戻し計算」

 

 

(1)積上げ計算方式

 

適格請求書等(インボイス)に記載された消費税額等を積上げて計算する方法です。ただし、適格簡易請求書で消費税額等の記載が省略される場合、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる場合(公共交通機関による旅客の運送、郵便切手、出張旅費等)があり、その場合は個々の課税仕入れごとに支払金額を割り戻して算出した消費税額等(1円未満の端数は、切捨てまたは四捨五入)を積上げの対象にすることが認められます。

 

(2)割戻し計算方式

課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分した金額の合計額にそれぞれの税率を乗じた額を課税仕入れに係る消費税額とする方法 です。

 

 

(3)認められる組合せ

 

売上税額と仕入れ税額の計算において認められる組み合わせは、以下の通りです。

売上税額の計算について積上げ計算方式による場合は、仕入税額の計算についても積上げ計算方式によらなければなりません。

 

売上税額の計算:割戻し計算-仕入税額の計算:積上げ計算

売上税額の計算:積上げ計算-仕入税額の計算:積上げ計算

売上税額の計算:割戻し計算-仕入税額の計算:割戻し計算

 

7.免税事業者等からの仕入れ

免税事業者等(免税事業者、適格請求書発行事業者の登録を受けていない課税事業者および消費者)からの課税仕入れについては、免税事業者等からの仕入が急激に不利にならないようにする特例措置が期間を限定して設けられます。

 

包括利益とは何か?包括利益計算書とは?その目的と表示について

1.包括利益の定義

包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。

つまり、純資産の変動のうち資本取引に該当しないものが包括利益に該当します。

 

包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分を、「その他の包括利益」といいます。

 

なお、当該企業の純資産に対する持分所有者として、以下のものが挙げられます。

  • 当該企業の株主
  • 当該企業の発行する新株予約権の所有者
  • 連結財務諸表においては、当該企業の子会社の少数株主

 

2. 包括利益表示の目的

包括利益を表示する目的は、期中に認識された取引及び経済事象(資本取引を除く)により生じた純資産の変動を報告することです。

 

また、以下のような効果も期待されています。

  • 財務諸表利用者が企業全体の事業活動を検討するのに役立つ
  • 財務諸表の理解可能性と比較可能性を高める
  • 国際的な会計基準とのコンバージェンス

 

つまり、包括利益の表示は、包括利益が企業活動に関する最も重要な指標として位置付けられたため行われるということではなく、その表示によって提供される情報を、当期純利益に関する情報と併せて利用することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めるために行われるものです。

 

3. 包括利益の表示

包括利益の表示は、以下のように行われます。

 

個別財務諸表 当期純利益に「その他の包括利益」の内訳項目を加減
連結財務諸表 少数株主損益調整前当期純利益に「その他の包括利益」の内訳項目を加減

 

なお、包括利益会計基準は、当面の間、個別財務諸表には適用しないこととされています。

また、会社法において包括利益を表示する計算書の開示は求められていません。

 

4.包括利益計算書の作成

当期純利益に「その他の包括利益」の内訳項目を調整することによって、包括利益を表示します。

 

加減される「その他の包括利益」の内訳項目は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額等で、その内容に基づき、区分します。

 

なお、持分法を適用する被投資会社の「その他の包括利益」に対する投資会社の持分相当額は、一括して区分表示することが求められます。

「その他の包括利益」の内訳項目の金額については、税効果を控除した後の金額で表示します。

 

5.包括利益計算書の様式

包括利益を表示するための当期純利益からの調整計算は、具体的には計算書の形式で行われますが、その計算書は、二つの形式のうちいずれかによることとされています。

 

2計算書方式 当期純利益を表示する損益計算書と、包括利益を表示する包括利益計算書からなる形式
1計算書方式 当期純利益の表示と包括利益の表示を一つの計算書(「損益及び包括利益計算書」)で行う形式

 

2計算書方式でも1計算書方式でも、包括利益の内訳として表示される内容は同じです。

 

6. 包括利益計算書と他の財務諸表との関係

包括利益とはある特定期間での純資産の変動額から求められます。

 

包括利益は少数株主損益調整前当期純利益と「その他の包括利益」から構成されますが、少数株主損益調整前当期純利益の累計が「利益剰余金」又は「少数株主持分」として表示されるのに対して、前期以前から獲得してきた「その他の包括利益」の累計は、貸借対照表及び株主資本等変動計算書において、「その他の包括利益累計額」として表示されます。

 

なお、内訳項目別に見た場合、包括利益計算書での「その他の包括利益」は、貸借対照表及び株主資本等変動計算書での「その他の包括利益累計額」の前期からの変動額と一致しないこともあります。これは包括利益計算書での「その他の包括利」益には、「その他の包括利益」に対する少数株主持分も含まれること、及び持分法適用会社の「その他の包括利益」については区分表示されることが、不一致の要因として考えられています。