「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドver.2~」(以下、本実践ガイド)が、2020年3月に環境省より公表されました。
本実践ガイドの中から「本実践ガイドの目的」と「TCFD提言におけるシナリオ分析の位置付け」の項目についてまとめています。
1.本実践ガイドの目的
「実践ポイント」と「セクター別実践事例」により、シナリオ分析の課題に答えることを目的としています。
(1) シナリオ分析の実践で企業が困る点
シナリオ分析の実践で企業が困る点は、おおまかに4点です。
① 具体的な自社でのプロセスがわからない
② シナリオ分析実施のレベル感は画一的に決められない
③ 社内の経営陣に理解してもらうには労力が必要
④ 活用可能な外部データの不足
(2) 本実践ガイドで上記の問題を解決
本実践ガイドで上記の問題の解決を図ることが可能となります。
① 本実践ガイドの「実践のポイント」「セクター別実践事例」の内容を理解する
② わかる範囲でのパラメータからシナリオ分析を実施。経営陣とその結果をもって対話をスタート
③ Appendixで外部データ、パラメータを掲載
(3) シナリオ分析の進め方
シナリオ分析はできるところからスタートし、段階的に充実させていきます。
(4) シナリオ分析のゴール
シナリオ分析のゴールは、「気候変動課題の対応」と「企業価値の向上」の同時実現です。
2.TCFD提言におけるシナリオ分析の位置付け
(1) TCFD設立の背景
気候変動リスクは金融システムの安定を損なう恐れがあり金融機関の脅威になりうることが、設立の背景にあります。
① 物理的リスク:財物損壊等、資源枯渇等
② 賠償責任リスク:賠償責任の追及
③ 移行リスク:低炭素経済、金融資産再評価
(2) 気候変動と企業経営
気候変動は企業経営にとって明確なリスクと機会になりえます。
(3) TCFDの目指す姿
TCFDは5年のタイムフレームワークを採用し、企業へ段階的な対応を期待しています。
(4) TCFD提言の求めているもの
TCFDでは気候変動による財務への影響の開示を求めています。
(5) 財務への影響
TCFDでは、気候関連リスク・機会と財務上の影響の開示対象を例示しています。
(6) 気候関連リスク
TCFDでは気候関連リスクを、低炭素経済への「移行」に関連するリスクと、気候変動による「物理的」変化に関連するリスクに大別しています。
① 移行リスク:低炭素経済への「移行」に関するリスク
政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク、評判リスク
② 物理的リスク:気候変動による「物理的」変化に関するリスク
急性リスク(異常気象など)、慢性リスク(平均気温上昇など)
(7) 気候関連機会
TCFDでは気候変動緩和策・適応策による経営改革の機会を5つに分類し例示しています。
① 資源の効率性
② エネルギー源
③ 製品・サービス
④ 市場
⑤ 強靭性(レジリエンス)
(8) 業種別ガイダンス
TCFDは、非金融セクターのうち、気候変動の影響を強く受ける4セクター(エネルギー、運輸、素材・建築物、農業・食料・林業製品)に対し、推奨する開示項目を補助ガイダンスにおいて明らかにしています。
(9) TCFDの要求項目
TCFDの要素は、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つです。
① ガバナンス=経営陣の関与
気候関連リスクと機会を経営戦略に反映するためには、経営陣を巻き込んだ体制が必要であり、TCFDでは監督体制や経営者の役割の開示を求めています。
② 戦 略
短期・中期・長期のリスクと機会、事業・戦略・財務に及ばす影響、2℃目標等の気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性の開示を求めています。
③ リスク管理
リスク識別・評価のプロセス、リスク管理のプロセス、組織全体のリスク管理への統合状況について、開示を求めています。
④ 指標と目標
組織が戦略・リスク管理に則して用いる指標、GHG排出量、リスクと機会の管理上の目標と実績について開示を求めています。
(10) シナリオ分析の意義
① 気候関連リスクと機会が与える影響を評価するため、シナリオ分析による情報開示を推奨しています。シナリオ分析に係る技術的補足書も策定しています。
シナリオ分析は、長期的で不確実性の高い課題に対し、組織が戦略的に取り組むための手法として有益です。
② シナリオ分析は、将来の不確実性に対応した戦略立案と内部対話を可能にするものです。