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経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄~「デジタルガバナンス・コード」の制定

2020年11月9日に、経済産業省から「デジタルガバナンス・コード」が公表されました。

 

Ⅰ.デジタルガバナンス・コードの概要

 

1.現在の状況

 

あらゆる要素がデジタル化されていく Society5.0に向けて、ビジネスモデルを抜本的に変革(DX :デジタルトランスフォーメーション)し、新たな成長を実現する企業が現れています。

 

一方、グローバルな競争の中で、競合する新たなビジネスモデルにより既存ビジネスが破壊される事例(デジタルディスラプション)も現れています。

 

2.持続的な企業価値向上

 

こうした時代変化の中で、持続的な企業価値の向上を図っていくためには、企業全体の組織構造や文化の改革、中長期的な投資等の観点から、経営者の関与が不可欠となっています。

 

① ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと

 

② ビジネスの持続性確保のため、ITシステムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと

 

③ 必要な変革を行うため、IT部門、DX部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと

 

3.デジタルガバナンス・コードの制定

 

(1)制定の背景

 

我が国企業で本格的なDXの取組は遅れており、レガシーシステムがいまだ足かせとなっている企業や、ビジネスモデルの変革に取り組むものの、変革の入り口で足踏みしている企業も多く存在します。

 

また、企業のDXを進める能力を無形資産と捉えた、経営者とステークホルダーの対話も十分に行われていません。

 

(2)「デジタルガバナンス・コード」の内容

 

上記の背景の中で、経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめています。

企業がDXの取組を自主的・自発的に進めることを促すものです。

 

特に、経営者の主要な役割であるステークホルダーとの対話に積極的に取り組んでいる企業に対して、資金や人材、ビジネス機会が集まる環境を整備していくとしています。

 

(3)「デジタルガバナンス・コード」の対象

 

対象は、上場・非上場、大企業・中小企業といった企業規模、法人・個人事業を問わず広く一般の事業者としています。

 

ステークホルダーという用語は、顧客、投資家、金融機関、エンジニア等の人材、取引先、システム・データ連携により価値協創するパートナー、地域社会等を含みます。

 

(4)「デジタルガバナンス・コード」の柱立て

 

「デジタルガバナンス・コードの柱立て」は以下のようになっています。

 

1. ビジョン・ビジネスモデル
2. 戦略
2-1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
3. 成果と重要な成果指標
4. ガバナンスシステ厶

 

デジタルガバナンス・コードの全体構造の基本的事項は、情報処理促進法と対応しています。

 

 

 

Ⅱ 各項目の説明

 

1. ビジョン・ビジネスモデル

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

ⅰ) ビジネスモデルとステークホルダー

 

企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきです。

 

ステークホルダーの理解あるいはステークホルダーとの協力・協業を得るための対話を行っていく上で、必要な情報を整理し、発信していくことが求められます。

 

企業は、幅広いステークホルダーあるいは社会全体との関係を想定し、対話のきっかけとなる情報については、広く公表を行うことが望まれます。

 

ⅱ) ビジネスモデルの開示

 

ビジネスモデルとは、企業が事業を行うことで、顧客や社会に価値を提供し、それを持続的な企業価値向上につなげていく仕組みです。

有形・無形の経営資源を投入して製品やサービスをつくり、その付加価値に見合った価格で顧客に提供する一連の流れを指します。

 

自社のビジネスモデルにとって重要な要素を「価値創造ストーリー」として示していくことが重要です。

特に、デジタル技術による社会変化が進む中で、未来に向けて「価値創造ストーリー」をどのように変化あるいは強化させていくかといった方向性を示していくことが望まれます。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえた経営ビジョン及びビジネスモデルの方向性を公表していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項をもとに行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① 経営者として世の中のデジタル化が自社の事業に及ぼす影響(機会と脅威)について明確なシナリオを描いていること。

 

② 経営ビジョンの柱の一つにIT/デジタル戦略を掲げていること。

 

③ 既存ビジネスモデルの強みと弱みが明確化されており、その強化・改善にIT/デジタル戦略・施策が大きく寄与していること。

 

④ 事業リスク・シナリオに則った新しいビジネスモデルの創出をIT/デジタル戦略が支援していること。

 

⑤ IT/デジタルにより、他社と比較して持続的な強みを発揮していること。

 

⑥ 多様な主体がデジタル技術でつながり、データや知恵などを共有することによって、さまざまな形で協創(単なる企業提携・業務提携を超えた生活者視点での価値提供や社会課題の解決に立脚した、今までとは異次元の提携)し、革新的な価値を創造していること。

 

(3) 取組例

 

① デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえ、経営方針および経営計画(中期経営計画・統合報告書等)において、DXの推進に向けたビジョンを掲げている。

 

② DXの推進に向けたビジョンを実現するため、適切なビジネスモデルを設計している。

 

③ ビジネスモデルを実現するために、DX推進においてエコシステム等、企業間連携を主導している。

 

2. 戦略

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、社会及び競争環境の変化を踏まえて目指すビジネスモデルを実現するための方策としてデジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示していくべきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえて設計したビジネスモデルを実現するための方策として、デジタル技術を活用する戦略を公表していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項をもとに行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① 経営ビジョンを実現できる変革シナリオとして、戦略が構築できていること。

 

② IT/デジタル戦略•施策のポートフォリオにおいて、合理的かつ合目的な予算配分がなされていること。

 

③ データを重要経営資産の一つとして活用していること。

 

(3) 取組例

 

① DXを推進するための戦略が具体化されている。

 

② 経営戦略において、データとデジタル技術を活用して既存ビジネスの変革を目指す取組(顧客関係やマーケティング、既存の製品やサービス、オペレーション等の変革による満足度向上等)が明示されており、その取組が実施され、効果が出ている。

 

③ 経営戦略において、データとデジタル技術を活用した新規ビジネス創出について明示されており、その取組が実施され、効果が出ている。

 

④ 経営状況や事業の運営状況を把握できる仕組み(システム)があり、そこから得られるデータをふまえて経営・事業の意思決定が実施されている。

 

2-1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制を構築するとともに、組織設計・運営の在り方について、ステークホルダーに示していくべきです。

その際、人材の確保・育成や外部組織との関係構築・協業も、重要な要素として捉えるべきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術を活用する戦略において、特に、戦略の推進に必要な体制•組織に関する事項を示していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項を元に行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① IT/デジタル戦略推進のために経営層から現場までが主体的に動けるような役割と権限が規定されている。

 

② 社外リソースを含め知見・経験・スキル・アイデアを獲得するケイパビリティ(組織能力)を有しており、ケイパビリティを活かしながら、事業化に向かった動きができている。

 

③ 必要とすべきIT/デジタル人材の定義と、その獲得・育成/評価の人事的仕組みが確立されている。

 

④ 人材獲得・育成について、現状のギャップとそれを埋める方策が明確化されている。

 

⑤ 全社員のIT/デジタル・リテラシ向上の施策が打たれている。

 

⑥ 雇用の流動性、人材の多様性、意思決定の民主化、失敗を許容する文化等の組織カルチャーの変革への取組みが行われている。

 

(3) 取組例

 

① DXの推進をミッションとする責任者(Chief Digital Officerとしての役割)、CTO (科学技術や研究開発などの統括責任者、Chief Technology Officer )、CIO (ITに関する統括責任者、Chief Information Officer)、データに関する責任者(Chief Data Officer)が、組織上位置付けられ、ミッション・役割を含め明確に定義され任命されている。

 

② スキルマトリックス等により、経営層(経営者及び取締役・執行役員等)のデジタルに関係したスキルの項目を作成し、ステークホルダーに向け公表している。

 

③ 経営トップが最新のデジタル技術や新たな活用事例を得ている。

 

④ DXを推進する、組織上位置付けられた専任組織がある。

 

⑤ DX推進を支える人材として、「どのような人材が必要か」が明確になっており、計画的な育成、中途採用、外部からの出向、事業部門・IT担当部門間の人事異動等により人材確保のための取組を実施している。

 

⑥ DXの推進にあたり、オープンイノベーション、社外アドバイザー•パートナーの活用、スタートアップ企業との協業など、これまでのIT分野での受発注関係と異なる外部リソースの活用を実施している。

 

⑦ DX推進のための予算が一定の金額または一定の比率確保されている。予算は他のIT予算と別枠で管理されており、IT予算の増減による影響を受けないようになっている。

 

⑧ 全社員が、デジタル技術を抵抗なく活用し、自らの業務を変革していくことを支援する仕組み(教育・人事評価制度等)がある。

 

⑨ DXの推進にあたり、新しい挑戦を促すとともに、継続的に挑戦し、積極的に挑戦していこうとするマインドセット醸成を目指した、活動を支援する制度、仕組みがある。

 

2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術を活用する戦略において、特に、ITシステム•デジタル技術活用環境の整備に向けた方策を示していること」です。

 

認定にあたっての判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項、もしくは、機関承認された方針に基づき作成された内容であって公開文書に記載されている事項を元に行います。

 

(2) 望ましい方向性

 

① レガシーシステム(技術的負債)の最適化(IT負債に限らず、包括的な負債の最適化)が実現できている。

 

② 先進テクノロジの導入と独自の検証を行う仕組みが確立されている。

 

③ 担当者の属人的な努力だけではなく、デベロッパー・エクスペリエンス (開発者体験)の向上やガバナンスの結果としてITシステム、デジタル技術活用環境が実現できている。

 

(3) 取組例

 

① ビジネス環境の変化に迅速に対応できるよう、既存の情報システムおよびデータが、新たに導入する最新デジタル技術とスムーズかつ短期間に連携できるとともに、既存データを活用できるようになっている。

 

② 全社の情報システムが戦略実現の足かせとならないように、定期的にビジネス環境や利用状況をふまえ、情報資産の現状を分析・評価し、課題を把握できている。

 

③ 上記で実施した分析・評価の結果を受け、技術的負債(レガシーシステム)が発生しないよう、必要な対策を実施できている。またそれを実施するための体制(組織や役割分担)を整えている。

 

④ 情報システムの全社最適を目指し、全社のデータ整合性を確保するとともに、事業部単位での個別最適による複雑化・ブラックボックス化を回避するための仕組みがある。

 

3. 成果と重要な成果指標

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

企業は、デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すベきです。

 

② 認定基準

 

基準は、「デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表していること」です。

 

認定にあたっての判断は、公開文書に記載されている事項をもとに行います。

 

指標としては、

 

ⅰ) 企業価値創造に係る指標(企業が目標設定に用いるあるいは戦略的なモニタリング対象とする財務指標)、

ⅱ) 戦略実施により生じた効果を評価する指標、

ⅲ) 戦略に定められた計画の進埗を評価する指標

 

が考えられます。

 

認定に際しては、ⅱ)指標又はⅲ)指標が公表されているか、もしくは、ⅰ)指標が公表されており、戦略上の取組がどのようにⅰ)指標にどのように紐づいているかが明確となっていることが求めてられています。

 

指標については、定量指標の他、達成したか否かが判断できる定性指標も含まれます。

指標については、目標値やベンチマークの設定がなされていることが望ましいのですが、認定に際しては必須要件とはしていません。

 

(2) 望ましい方向性

 

① IT/デジタル戦略•施策の達成度がビジネスのKPIをもって評価されている。またそのKPIには目標値設定がされている。

 

② 上記KPIが最終的に財務成果(KGI)へ帰着するストーリーが明快である。

 

③ 実際に、財務成果をあげている。

 

④ IT/デジタル戦略等により、ESG/SDGsに関する取組を行うとともに、成果を上げている。

 

(3) 取組例

 

① 実施している取組について、すべての取組にKPIを設定し、KGI (最終財務成果指標)と連携させている。

 

② 企業価値向上に関係するKPIについて、ステークホルダーに開示している。

 

③ デジタル時代に適応した企業変革が実現できているかについて、指標(定量・定性)を定め、評価している。

 

4. ガバナンスシステム

 

(1) 基本的事項

 

① 柱となる考え方

 

ⅰ) 経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきです。

 

ⅱ) 経営者は、事業部門やITシステム部門等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきです。また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきです。

 

[取締役会設置会社の場合]

取締役会は、経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略の方向性等を示すにあたり、その役割・責務を適切に果たし、また、これらの実現に向けた経営者の取組を適切に監督するべきです。

 

② 認定基準

 

以下の3つの基準をあげています。

 

ⅰ) 経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略について、経営者が自ら対外的にメッセージの発信を行っていること。

 

経営者名でメッセージが発信されている公開文書等によって確認します。

 

ⅱ) 経営者のリーダーシップの下で、デジタル技術に係る動向や自社のIT システムの現状を踏まえた課題の把握を行っていること。

 

DX推進指標等により自己診断を実施していることの説明文書等が提出されることをもって確認します。

 

ⅲ) 戦略の実施の前提となるサイバーセキュリティ対策を推進していること。

 

サイバーセキュリティ経営ガイドライン等に基づき対策を行い、セキュリティ監査 (内部監査を含む)を行っていることの説明文書等が提出されることをもって確認します。

 

(2) 望ましい方向性

 

① 経営者が自身の言葉でそのビジョンの実現を社内外のステークホルダーに発信し、コミットしている。

 

② 経営・事業レベルの戦略の進捗・成果把握が即座に行える。

 

③ 戦略変更・調整が生じた際、必要に応じて、IT/デジタル戦略・施策の軌道修正が即座に実行されている。

 

④ 企業レベルのリスク管理と整合したIT/デジタル•セキュリティ対策、個人情報保護対策やシステム障害対策を組織・規範・技術など全方位的に打っている。

 

(3) 取組例

 

① 企業価値向上のためのDX推進について、経営トップが経営方針・経営計画やメディア等でメッセージを発信している。

 

② 経営トップとDX推進部署の責任者(CDO・CTO・CIO・CDXO等)が定期的にコミュニケーションを取っている。

 

③ 経営トップが事業部門やITシステム部門等と協力しながら、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映している。

 

④ 企業価値向上のためのDX推進に関して、取締役会・経営会議で報告・議論されている。

 

⑤ 経営者がサイバーセキュリティリスクを経営リスクの1つとして認識し、CISO等の責任者を任命するなど管理体制を構築するとともに、サイバーセキュリティ対策のためのリソース(予算、人材)を確保している。

 

⑥ サイバーセキュリティリスクとして守るべき情報を特定し、リスクに対応するための計画(システム的・人的)を策定するとともに、防御のための仕組み・体制を構築している。

 

⑦ サイバーセキュリティリスクに対応できる体制の構築に向けた取組として、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ、登録情報セキュリティスペシャリスト)の取得を会社として奨励している。

 

⑧ サイバーセキュリティを経営リスクの一つと捉え、その取組を前提としたリスクの性質・度合いに応じて、サイバーセキュリティ報告書、CSR 報告書、サステナビリティレポート、有価証券報告書等への記載を通じて開示を行っている。

「気候関連財務情報開示タスクフォース」提言より「リスク管理」、「指標と目標」の記載について

「気候関連財務情報開示に関するガイダンス~TCFDガイダンス 2.0(以下、「ガイダンス」)」がTCFDコンソーシアムより2020年7月に公表されました。

「リスク管理」、「指標と目標」に関する開示についての記載を見てみましょう。

 

Ⅰ リスク管理

 

1.TCFD提言

 

TCFD提言では「リスク管理」について、以下のとおり推奨しています。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)より抜粋

 

2.解説

 

(1)リスク管理

 

TCFD提言における「リスク管理」は、気候関連リスクの識別、評価、管理に関するプロセスに関する開示です。

 

(2)リスク管理の結果

 

「リスク管理」の結果として抽出されたリスクの財務インパクトは「戦略」で、また組織の経営におけるリスク管理の監督/実施体制は「ガバナンス」で開示される項目と整理されます。

 

(3)重要性・順位付け

 

気候関連リスクの相対的重要性の把握や優先順位付けの方法としては、マテリアリティ・マトリックスによる重要度の判定などを挙げています。

 

また、自社における気候関連リスクの管理プロセスを図や文章を用いて具体的に説明することも有効であるとしています。

 

Ⅱ 指標と目標

 

1.TCFD提言

 

TCFD 提言では「指標と目標」について以下のとおり推奨しています。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』 (2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)より抜粋

 

2.解説

 

(1)ストーリー性

 

指標と目標は、単に開示が推奨されている項目について開示するだけではなく、当該指標と目標がどのように企業としての価値創造に結びつくのか、また戦略に合致した指標であるかが分かるよう、ストーリー性を持たせて開示することが求められています。

 

(2)前提条件

 

その際、開示を行う企業は、指標の算出や目標の設定に用いた前提条件を明らかにすることで、投資家等に対してより効果的に情報を伝えることが可能となります。

また、指標の算出方法に変更が加えられた場合には、それについても開示することが望まれます。

 

(3)GHG排出量の開示

 

TCFD提言は、当てはまる場合は「Scope3」までのGHG 排出量の開示を求めていますが、「Scope3」排出量の算定にあたっては各企業において評価のバウンダリーが厳密には異なるため、企業間の単純比較はできないことに留意する必要があります。

 

また、TCFD 提言では、指標として例示されている項目の一つに、製品の全ライフサイクルを通じて回避されたGHG 排出量(avoided GHG emissions)についての記載があります。

 

企業単体のGHG排出量ではなく、製品やサービスの利用時におけるGHG排出削減量を開示することで、企業がそれらの製品・サービスを通じてどの程度世界全体のGHG削減に貢献したかを示すことが可能となります。

 

このようなバリューチェーン全体にわたる削減貢献量の評価・開示については、いくつかのガイダンスが作成されています。

 

「気候関連財務情報開示タスクフォース」提言の「戦略」に関する開示について

「気候関連財務情報開示に関するガイダンス~TCFDガイダンス 2.0(以下、「ガイダンス」)」がTCFDコンソーシアムより2020年7月に公表されました。

「戦略」に関する開示についての記載を見てみましょう。

 

Ⅰ.TCFD提言

 

TCFD 提言では「戦略」に関する開示については、以下のとおり推奨しています。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)より抜粋

 

Ⅱ.戦略a)、b)、c)の関係

 

上記のガイダンスにおける a)、b)、c)の 3つのカテゴリーの関係については、以下のとおりと解されます。

 

まず、a) と b) との関係については、a) で(シナリオ分析を行うか否かにかかわらず)短期、中期、長期のリスクと機会を特定し、b) でそのリスクと機会に基づき気候関連問題の事業、戦略、財務計画への影響を説明することを求めています。

 

また、c) については、ここでの「シナリオ分析」にはa)、b)の要素も含まれますので、c) を行えばa)、b) も満たされることになります。

 

1.a)の解説

 

(1)参考文献

 

具体的な短期・中期・長期の考え方については、TCFD 提言の「E. 重要な検討事項とさらなる作業が必要な分野」の「8.短期・中期・長期の時間枠」の記載が参考となります。

 

  1. 短期・中期・長期の時間枠

タスクフォースの第 2 回コンサルテーションの中で、一部の組織がタスクフォースに対し、短期・中期・長期の具体的な幅を定義するよう求めた。組織に対する気候関連の影響のタイミングは多様であるため、セクター全体で短期・中期・長期の時間枠を特定すると自らのビジネスに固有な気候関連のリスク及び機会に関する組織の検討を妨げてしまいかねないとタスクフォースは考えている。従って、タスクフォースは時間枠を特定せず、開示情報作成者に対して、自らの資産の寿命、直面する気候関連リスクの特徴、彼らが操業するセクターと地理的位置などにより独自の時間枠の規定の仕方を決めるよう奨励する。

気候関連問題の評価にあたり、組織はその評価を行う際に利用する時間枠に対して慎重であるべきである。多くの組織は操業・財務計画を1~2年の時間枠で、戦略・資本計画を2~5年の時間枠で実施しているが、気候関連リスクは組織に対してより長期間にわたり影響を与える可能性がある。したがって、組織にとっては、気候関連リスクを評価する際に適切な時間枠を検討することが重要である。

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.33 より抜粋

 

(2)時間枠について

 

上記提言の第2パラグラフにおいては、気候関連リスクは「より長期間にわたり影響を与える可能性がある」ため、「適切な時間枠を検討することが重要である」と述べられています。

 

「何が適切な時間枠であるか」については、影響を与えることが想定される気候関連リスク及び機会に依存します。

気候変動がもたらす物理的リスクへの対応や、低炭素技術のようなイノベーションの中には操業・財務計画や戦略・資本計画で想定する年数よりはるかに長い時間をかけて取組が進められるべきものが存在します。

 

また、IPCC の報告書において大幅な削減が想定され、また多くの国の長期計画の目標年次ともなっている等、長期的な気候変動対策のマイルストーンとして「2050年」という年次が注目されています。

 

このような長期的な時間枠の設定にあたって参照することが考えられる既存のレポートとして、移行リスクについては例えば IEA(国際エネルギー機関)等のシナリオの情報が、また物理的リスクについては、国際機関等が業種別・地域別の影響を考察したレポート等の情報が考えられます。

 

2.b)の解説

 

(1)「研究開発に対する投資」

 

上記のとおり、気候変動のリスク及び機会が組織のビジネスと戦略に対する影響が及ぶ分野としては、「製品とサービス」、「サプライチェーン及び/またはバリューチェーン」、「適応活動と緩和活動」「研究開発に対する投資」、「操業(操業のタイプと設備の設置場所など)」があげられています。

 

上記のうち「研究開発に対する投資」は、TCFD 研究会を通じて質問の多かった項目としています。

 

また、近年のガイダンスにおいて、気候関連情報としてリスクだけではなく機会が重要であることが示されています。

 

「グリーン投資ガイダンス」においては、事業会社が気候関連の機会を獲得するための重要な取組として研究開発を含むイノベーションを挙げ、イノベーションに対する投資家等の理解、評価の重要性について記載しています。

 

(2)「研究開発に対する投資」についての解説

 

① 開示の概要

 

研究開発については、なぜその研究開発が必要かを、自社が特定した将来のリスクや機会と関連づけて説明することが望まれます。

 

特に省エネルギーに向けた取組や排出されたCO2 の有効利用等、GHG 削減に大きく貢献する取組に関する研究開発を行う場合は積極的に記載することが望まれます。

 

② トランジション・ファイナンス

 

パリ協定の目標実現に向けた着実な移行(トランジション)に資する取組へのファイナンスに関する議論が国際的にも高まっています。

 

トランジション・ファイナンスにおいては事業実施主体が移行への取組に関する戦略等を説明することが重要となるため、この点において TCFD を通じた情報開示を活用することが可能であり、こうした資金を獲得する観点からも積極的な情報開示は有用となります。

 

③ 物理的リスク

 

物理的リスクへの対応の観点からは、異常気象等に対する事業継続性(サプライチェーンの維持、エネルギーの安定供給等)や水の安定調達、食糧の安定供給等に資する研究開発も重要となります。

 

④ 具体的な研究開発の説明

 

具体的な研究開発の説明に当たっては、研究開発費の総額のみならず、テーマ別の予算配分や、当該技術の実用化によるアウトカム(収益への貢献、CO2 削減量等)及び研究開発とアウトカムの関係性について説明することが望まれます。

 

これらについて開示することは企業における研究開発の意義を明らかにすることにつながり、結果として投資家は企業の長期戦略とイノベーションの取組の方向性について確認することが可能となります。

 

特に基礎研究開発については、その背景にある課題意識や当該研究開発が影響を及ぼす技術分野について説明することで、その意義を明確にすることが可能になると考えられます。

 

⑤ 情報発信

 

企業として気候変動関連のイノベーションに積極的に取り組んでいることを示すための方法として、政府や業界団体等によるイノベーション関連のイニシアティブに参画し、積極的な情報発信を行うことも有効となります。

 

3.c)の解説~シナリオ分析の手順

 

具体的なシナリオ分析の手順に沿って(1)~(3)の順に説明を行っています。

 

(1)シナリオに基づく戦略の検討手法について

 

① シナリオの設定

 

(TCFD提言)

 

D.シナリオ分析及び気候関連問題

4.シナリオ分析の適用

タスクフォースは、シナリオ分析の複雑さや、それを実施するのにリソースが必要となるであろうことを認識しつつも、気候関連リスク及び機会の評価にシナリオ分析を用いることを組織に奨励する。シナリオ分析の使用を始めたばかりの組織には、時とともに進化し深みを増す定性的アプローチが適切であろう。シナリオ分析の実施により幅広い経験を有する組織は、データや定量モデル及び分析の活用が厳密でより洗練されたものになることは確実であろう。組織は既存の外部シナリオやモデル(第三者ベンダーが提供するものなど)を使うと決めてもよいし、独自に社内でモデリング能力を開発してもよい。どのアプローチを選ぶかは、組織のニーズ、リソース、能力によって決まる。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年 6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.24 より抜粋

 

② 解説

 

いずれの方法においても、単一のシナリオではなく複数のシナリオを想定することが、不確実な将来に対する企業のレジリエンスを示すことに繋がるため、重要となります。

 

また、シナリオ分析結果の解釈に当たっては、結論のみならず、そこに至る検討のプロセスについて投資家等が納得できるようなストーリーや論理性をもって開示することが投資家等の理解を深める上では重要となります。

 

(2)シナリオ分析に求められる定量性について

 

① TCFD提言では、シナリオ分析に求められる定量化について以下のように求めています。

 

(TCFD提言)

 

タスクフォースは、気候関連リスクに晒される全ての組織が、(1)その戦略・財務計画立案プロセスへの情報提供に役立てるようシナリオ分析を利用し、(2)実現性の高いさまざまな気候関連シナリオに対して組織の戦略がどのように強靭であるかについて、開示することを検討すべきであると考えている。タスクフォースは、多くの組織にとってシナリオ分析は概して定性的な実務である、あるいはそうなるであろうと認識している。しかし、移行リスクや物理的リスクに対する影響がより甚大となる組織は、さらに厳密な定性的シナリオ分析を、また適宜、組織の運営に悪影響を与える重要な決定要因と傾向について定量的なシナリオ分析を実施すべきである。

(中略)

シナリオ分析実施において初歩的ないし初期段階にある組織や、気候関連問題にあまり影響を受けない組織については、タスクフォースは、関連する気候変動シナリオの範囲において、組織の戦略や財務計画がどのように強靭であるかについて、定性的ないし方向感をもって開示するよう奨励する。このような情報は、起こり得るさまざまな将来の状況において、組織の先々の戦略や財務計画がどのくらい堅牢であるかを、投資家、貸付業者、保険会社、その他のステークホルダーが理解するのに役立つ。

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.23-24 より抜粋

 

② 解説

 

金融機関からは「精緻なシナリオ分析を求めているわけではなく、気候変動のリスク・機会についてどのように考え、経営しているかのチェックポイントとして見ている」とする意見が得られているとのことです。

 

そのため、シナリオ分析の開示にあたっては、前提条件やシナリオ選定の理由を説明することが重要になります。

 

なお、定性的なシナリオ分析を行う場合には、その影響度合いを絶対値ではなく大・中・小といった相対的な表現で説明することが考えられます。

 

(3)レジリエンスの表現方法について

 

① TCFD提言では、レジリエンスについて以下の記載を求めています。

 

(TCFD提言)

 

D.シナリオ分析及び気候関連問題

4.シナリオ分析の適用

(略)

図8 非金融組織のための開示における検討事項

気候関連問題の影響を大きく受ける組織は、シナリオ分析における以下のような重要な側面について、開示することを検討する必要がある。

(略)

4.組織の戦略の強靭さに関する情報(以下を含む:検討された多様なシナリオの下での戦略的パフォーマンスのインプリケーション、組織のバリューチェーンに対する潜在的な定量的・方向性的なインプリケーション、資本配分の決定、研究開発への重点、組織の運営業績及び/または財務ポジションに対する重大な財務的インプリケーション)

 

『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』(2017年 6月)(訳 株式会社グリーン・パシフィック)P.24 より抜粋

 

② 解説

 

レジリエンスとは、シナリオ分析によって示唆された複数の未来に対して、自社が存続可能であることを示すものです。

 

レジリエンスの開示の例としては、中長期のリスク(移行リスクや物理的リスク)や機会を抽出し、それぞれに対する管理・取組状況等を記載する方法が考えられます。

 

「デジタルトランスフォーメーション レポート2 中間取りまとめ」

2020年12月28日に、経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」が「DXレポート2 中間取りまとめ」を公表しました。

企業のDXを加速するための課題やその対応策を中心に議論されています。

 

Ⅰ 「DXレポート2」の「目次」は以下のようになっています。

 

1.検討の背景と議論のスコープ

2.DXの現状認識とコロナ禍によって表出したDXの本質

2.1DX堆進指標の分析結果

2.2企業のDXに対する危機感の現状

2.3コロナ禍で起きたこととDXの本質

2.4企業の目指すべき方向性

2.5ベンダー企業の目指すべき方向性

3.企業の経営・戦略の変革の方向性

3.1 DX加速シナリオ

3.2コロナ禍を契機に企集が直ちに取り組むべきアクション

3.3DX推進に向けた短期的対応

3.4DX推進に向けた中長期的対応

4.政府の政策の方向性

4.1共通理解の形成のためのポイント集の策定

4.2CIO/CDXOの役割再定義

4.3DX成功パターンの策定

4.4デジタルプラットフォームの形成

4.5ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進

4.6 DX人材の確保

5.今後の検討の方向性

 

Ⅱ DXの現状認識とコロナ禍によって表出したDXの本質

 

1.コロナ禍で起きたこととDXの本質

 

・テレワークをはじめ社内のITインフラや就業規則等を迅速に変更してコロナ禍の環境変化に対応できた企業とできなかった企業との間で差が生じています。

 

・押印、客先常駐、対面販売など、これまでは疑問を持たなかった企業文化の変革に踏み込むことができたかが、その分かれ目となっています。

 

・事業環境の変化に迅速に適応すること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することの重要性が明らかになりました。

 

2.企業の目指すべき方向性

 

・ 変化に迅速に適応し続けること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することがDXの本質であり、企業の目指すべき方向性です。

 

・ コロナ禍によって人々の固定観念が変化した今こそ企業文化を変革する機会です。

 

・ビジネスにおける価値創出の中心は急速にデジタルに移行しており、今すぐ企業文化を変革しビジネスを変革できない企業は、デジタル競争の敗者になって行きます。

 

(1) DXの定義:「DX推進指標とそのガイダンス」より

 

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、

データとデジタル技術を活用して、

顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、

業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、

競争上の優位性を確立すること

 

(2) コロナ禍により表出したこと

 

コロナ禍は一過性の特殊事象ではなく常に起こりうる事業環境の変化です。

これまでは疑問を持たなかった企業文化の変革に踏み込むことができたかどうかが対応の成否を分けています。

 

(3) 企業の目指すべき方向性

 

企業が競争上の優位性を確立するには、常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することが重要です。

 

Ⅲ 企業の経営・戦略の変革の方向性

 

1.DX加速シナリオ

 

(1) これまでのDX政策とその結果

 

企業のDX推進状況に大きな差がでています。

 

(2) コロナ禍で明らかになったDXの本質

 

① 「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することの必要性が明らかになりました。

 

② DXは、ITシステム更新の問題から企業文化刷新の問題へとなっています。

 

(3) コロナ禍により高まるDXの緊急性

 

① デジタルの浸透

・デジタルサービスが提案する新たな価値を享受することが当たり前になっています。

 

・コロナ禍を通じて人々の固定観念が変化しています。テレワークなどをはじめとしたデジタルによる社会活動の変化は元には戻りません。

 

・ビジネスにおける価値創出の中心がデジタルの領域に移行しています。

 

② DXの緊急性

・顧客の変化に対応するにはデジタルは必須です。ビジネスを今変化させなければ、デジタル競争の敗者となります。

 

・企業の変革を推進するパートナーとなるため、これまで企業のITシステム構築を担ってきたベンター企業も変革が必要です。

 

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

 

(4) 加速シナリオへの対応

 

企業が取り組むべきアクションを、「直ちに」、「短期」、「中長期」に分けて説明しています。

「DXレポート2 中間取りまとめ」より抜粋。

 

2.コロナ禍を契機に企集が直ちに取り組むべきアクション

 

(1) コロナ禍でも従業員・顧客の安全を守りながら事業継続を可能とするにあたり、以下のようなカテゴリの市販製品・サービスの活用による対応を検討すべきです。

 

・業務環境のオンライン化

・業務プロセスのデジタル化

・従業員の安全・健康管理のデジタル化

・顧客接点のデジタル化

 

(2) こうしたツールの迅速かつ全社的な導入には経営トップのリーダーシップが重要です。

企業が経営者のリーダーシップの下、企業文化を変革していくうえでのファーストステップとなります。

 

3.DX推進に向けた短期的対応

 

(1) DX推進体制の整備

 

① DX推進に向けた関係者間の共通理解の形成

・DXの推進にあたっては、経営層、事業部門、IT部門が対話を通じて同じ目線を共有し、協働してビジネス変革に向けたコンセプトを描いていく必要があります。

 

・そのために、DXとはどういうもので、自社のビジネスにどのように役立つか、どのような進め方があるのか等、関係者間での対話の仕組みや中身について、共通理解を初めに形成することが必要です。

 

② CIO/CDXOの役割・権限等の明確化

・DXの推進にあたり、経営資源の配分について経営トップと対等に対話し、デジタルを戦略的に活用する提案や施策をリードする経営層がCIO/CDXOです。

 

・CIO/CDXOの果たすべき役割、権限等を明確にした上で、適切な人材が配置されるようにするべきです。

 

③ 遠隔でのコラボレーションを可能とするインフラ整備

・地理的に離れている人材や社外の人材など多様な人材の活用を可能にし、今後のイノベーション創出のインフラとなる可能性があります。

・遠隔でのコラボレーションのあり方を議論していくことが必要です。

 

(2) 業務プロセスの再設計

 

・コロナ禍前の「人が作業することを前提とした業務プロセス」を、デジタルを前提とし、かつ顧客起点で見直しを行うことにより大幅な生産性向上や新たな価値創造が期待できます。

・業務プロセスの見直しを一度実施したとしても、そこで見直しの活動を停止してしまえば業務プロセスがレガシー化してしまうため、業務プロセスは恒常的な見直しが求められます。

・業務プロセスの見直しにあたっては、顧客への価値創出に寄与するかという視点で見直しを行うべきです。

 

(3) DX推進状況の把握

 

・DX推進指標を活用することで、DXの推進状況について関係者間での認識の共有や、次の段階に進めるためのアクションを明確化することが可能となります。

・DX推進指標による診断を定期的に実施することが望まれます。

 

4.DX推進に向けた中長期的対応

 

(1) デジタルプラットフォームの形成

 

・企業は協調領域については、自前主義を排し、経営トップのリーダーシップの下、業務プロセスの標準化を進めることでSaaSやパッケージソフトウェアを活用し、貴重なIT投資の予算や従事する人材の投入を抑制すべきです。

・IT投資の効果を高めるために、業界内の他社と協調領域を形成して共通プラットフォーム化することも検討すべきです。

・共通プラットフォームによって生み出される個社を超えたつながりは、社会課題の迅速な解決と、新たな価値の提供を可能とするため、デジタル社会の重要な基盤となります。

 

(2) 産業変革のさらなる加速

 

①変化対応力の高いITシステム構築を構築するために

・迅速に仮説・検証を繰り返す必要があるSoEの領域における大規模ソフトウェア開発には、これまでの受発注形態では対応が困難な可能性が高くなります。

・競争領域を担うITシステ厶の構築においては、仮説・検証を俊敏に実施するため、アジャイルな開発体制を社内に構築し、市場の変化をとらえながら小規模な開発を繰り返すべきです。

 

②ベンダー企業の事業変革

・協調領域に関するITシステムはパッケージソフトウェアやSaaSの利用に代替されるとともに、競争領域のITシステムについては経営の迅速さを最大限に引き出すためにユーザー企業で内製化されるようになると考えられるため、今後、大規模な受託開発は減少していくものと考えられます。

・こうしたユーサー企業の変化を起点として、ベンダー企業自身も変革していくことが必要です。

 

③ユーザー企業とベンダー企業との新たな関係

・ベンダー企業はユーザー企業とアジャイルの考え方を共有しながらチームの能力を育て(共育)、内製開発を協力して実践する(共創)べきです。

・同時に、パートナーシップの中で、ユーザー企業の事業を深く理解し、新たなビジネスモデルをともに検討するビジネスパートナーへと関係を深化させていくべきです。

・ベンダー企業はデジタル技術における強みを核としながら、ビジネス展開に必要な様々なリソース(人材、技術、製品・ サービス)を提供する企業、業種・業界におけるデジタルプラットフォームを提供する企業や、さらにはベンダー企業という枠を超えた新たな製品・サービスによって直接社会へ価値提案を行う企業へと進化していくことが期待されます。

 

(3) DX人材の確保

 

① ジョブ型人事制度の拡大

・テレワーク環境下においても機能するジョブ型の雇用に移行する方向で考えるべきです。

・ジョブ型雇用の考え方は、特に、DXを進めるに際して、社外を含めた多様な人材が参画してコラボレーションするようなビジネス環境として重要なものになります。

・ジョブ(仕事の範囲、役割、責任)を明確にし、そのうえでさらに成果の評価基準を定めることから始めることが現実的です。

 

② DX人材の確保

・構想力を持ち、明確なビジョンを描き、自ら組織をけん引し、実行することができるような人材が求められます。

・DXの推進においては、企業が市場に対して提案する価値を現実のITシステムへと落とし込む技術者の役割が極めて重要です。同時に、技術者のスキルの陳腐化は、DXの足かせとなることもあります。

・常に新しい技術に敏感になり、学び続けるマインドセットを持つことができるよう、専門性を評価する仕組みや、リカレント学習の仕組みを導入すべきです。

・副業•兼業を行いやすくし、人材流動や、社員が多様な価値観と触れる環境を整えることも重要です。

 

会計上の見積もりを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方

企業会計基準委員会は、会計上の見積もりを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方を2021年2月10日に更新し、該当する議事概要を公表しました。

 

Ⅰ 公表の経緯

 

2020年4月に第429回企業会計基準委員会の議事概要を公表してから約10か月経過していますが、現状においても、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変化はありません。

 

会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはありません。

 

これまでに公表した議事概要の考え方の周知を引き続き行っています。

 

また、現状における論点を審議し、これまでに公表した議事概要を更新する形で第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)の議事概要が公表されました。

 

Ⅱ 第429回企業会計基準委員会議事概要

 

企業会計基準委員会(以下、当委員会)は、2020年4月10日に第429回企業会計基準委員会の議事概要として、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しています。

 

1.状況

 

(1)会計上の見積りの定義

 

財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となります。

 

会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義しています。

 

(2)コロナ禍の影響

 

新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられます。

 

2.留意点

 

このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があります。

 

(1) 一定の仮定

 

「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられます。

 

(2) 外部情報源の入手が困難な場合

 

一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望まれます。

 

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられます。

 

この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになります。

 

(3) 「誤謬」との関係

 

企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられます。

 

(4) 追加情報としての開示

 

最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられます。

 

このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられます。

 

Ⅲ 第432回企業会計基準委員会議事概要

 

当委員会は、2020年5月11日に第432回企業会計基準委員会の議事概要として、第429回企業会計基準委員会の議事概要に以下を追加しています。

 

上記の(4)の「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれます。

 

Ⅳ 第436回企業会計基準委員会議事概要

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した上記の考え方について四半期決算における考え方を明らかにして欲しいとの意見が聞かれたため、2020年6月26日に第436回企業会計基準委員会の議事概要において、以下を確認しています。

 

(1) 前年度の財務諸表で追加情報の開示を行っていて、四半期決算で重要な家庭の変更を行った場合

 

前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられます。

 

(2) 前年度の財務諸表で追加情報を開示していないが、四半期決算で仮定を開示している場合

 

前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられます。

 

 (3) 前年度の財務諸表で追加情報を開示し、四半期決算で仮定に重要な変更を行っていない場合

 

前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望まれます。

 

Ⅴ 第451回企業会計基準委員会議事概要(2021年2月10日更新)

 

 

1.企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を適用する前の取扱い

 

企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「企業会計基準第31号」という。)を適用する前の年度決算に関する取扱い及び四半期決算の取扱いについては、審議の上、第429回企業会計基準委員会の議事概要、第432回企業会計基準委員会の議事概要及び第436回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方が変わらないことを確認しています。

 

2.企業会計基準第31号を適用した後の取扱い

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方について、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用が開始される企業会計基準第31号との関係を明らかにして欲しい等の意見が聞かれており、審議の上、以下を確認しています。

 

(1) 考え方の継続

 

第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(1)(2)及び(3)については、企業会計基準第31号の適用後も、会計上の見積りを行う上で新型コロナウイルス感染症の影響を考えるにあたり変わりません。

(1):一定の仮定

(2):外部情報源の入手が困難な場合

(3):「誤謬」との関係

 

(2) 企業会計基準第31号における開示

 

企業会計基準第31号は、重要な会計上の見積りとして識別した項目について、当年度の財務諸表に計上した金額、及び会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を開示することとしています。

 

その他の情報には、例えば、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、及び翌年度の財務諸表に与える影響が含まれます。

 

(3) 企業会計基準第31号に基づく開示と重要性がある場合の追加情報としての開示の関係

 

したがって、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(4)において重要性がある場合に追加情報としての開示が求められる新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、企業会計基準第31号で求められる開示に含まれることが多いと想定されます。

 

前段に記載した他の開示と合わせ、新型コロナウイルス感染症の影響について、より充実した開示になることが想定されます。

 

なお、企業会計基準第31号に基づく開示において、第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432回企業会計基準委員会の議事概要で示した開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられます。

 

(4) 企業会計基準第31号に基づく開示以外の追加情報としての開示

 

新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示しているケースが見られます。

 

企業会計基準第31号に基づく開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について求められるものであるため、このような開示は、企業会計基準第31号により求められる開示には含まれませんが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられます。

 

「株式報酬等取扱い」~適用範囲、会計処理の考え方、具体的会計処理、開示

改正会社法において、取締役又は執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないこととされました。

これを受けて、ASBJでは、これらの会計処理及び開示を明らかにすることを目的として、2021年1月28日に「株式報酬等取扱い」を公表しました。

 

1.適用範囲

 

(1)株式の無償交付

 

「会社法202条の2」に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象としています。

 

(2)現物出資構成の取り扱い

 

① 現行実務において行われている(いわゆる)現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引には適用されません。

 

② 株式報酬等取扱いが対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行ですが、(いわゆる)現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、(いわゆる)現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています。

 

2.会計処理の基本的な考え方

 

(1)基本的考え方

 

株式報酬は、インセンティブ効果を期待して自社の株式が付与されるものであり、ストック・オプションとその目的が同一であると考えられますので、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)の定めに準じることとされています。

 

(2)適用対象取引

 

株式報酬等取扱いの適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されています。

株式が交付される時点が異なる点や、事前交付型においては株式の交付の後に株式を無償で取得することがあるなど、取引の形態ごとに異なる取扱いが定められています。

 

3.事前交付型

 

(1) 定義

 

・取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引のうち

・対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い

・権利確定条件を達成した場合に譲渡制限が解除され

・権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」という。)取引。

 

(2) 会計処理

 

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ下記のとおりの会計処理が定められています。

 

割当日における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

当初の割当日において新株を発行し発行済株式総数が増加しますが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないことから、割当日には払込資本を増加させません。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

当初の割当日において自己株式を処分するため、その時点で自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額します。

 

対象勤務期間における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

ア) ストック・オプション会計基準と同様に、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上します。

各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とします。

なお、権利確定条件の不達成による失効等の見積数に重要な変動が生じた場合、また、権利が確定した場合に株式数を見直します。

 

イ) ア)の処理により年度通算で費用が計上される場合は、対応する金額を資本金又は資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額します。

なお、四半期会計期間においては、計上する損益に対応する金額はその他資本剰余金の計上又は減額として処理し、年度の財務諸表においては、イ)の処理に置き換えます。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

新株発行の場合と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上します。

 

没収時における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

没収により、企業が無償で株式を取得したときは、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)14項の定めによる自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理します。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

没収により、企業が無償で株式を取得したときは、自己株式等会計適用指針14項の定めによらず、当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額のうち、没収により取得した自己株式に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額します。

 

4.事後交付型

 

(1) 定義

 

・取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち

・契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており

・権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引。

 

(2)会計処理

 

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合について、それぞれ下記のとおり定めています。

また、「株式報酬等取扱い」における以下の定めにより、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、新たに「株式引受権」を計上するとしたことから、改正純資産会計基準及び改正純資産適用指針において、「株式引受権」という科目が追加されています。

 

対象勤務期間における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します。

 

②割当日における取扱い

 

A) 新株の発行により行う場合

権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替えます。

 

B) 自己株式の処分により行う場合

権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させます。

 

5.その他の会計処理

 

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、株式報酬等取扱いの開発段階においては改正会社法の施行前であり、取引の詳細は定かではないことから、基本となる会計処理のみを定めることとしています。

 

株式報酬等取扱いに定めのないその他の会計処理については、類似する取引又は事象に関する会計処理が、ストック・オプション会計基準や企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、「ストック・オプション適用指針」といい、ストック・オプション会計基準とあわせて「ストック・オプション会計基準等」という。)に定められている場合には、これに準じて会計処理を行うとすることとされています。

 

6.開示

 

(1)注記

 

「株式報酬等取扱い」では、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準じることとしていることから、ストック・オプション会計基準等における注記事項を基礎としています。

 

ストック・オプションと事前交付型および事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、以下の注記項目が定められています。

以下の注記事項の具体的な内容や記載方法については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて行うこととされています。

 

① 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る)

 

② 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る、ただし、権利確定後の未発行株式数を除く)

 

③ 付与日における公正な評価単価の見積方法

 

④ 権利確定数の見積方法

 

⑤ 条件変更の状況

 

(2) 1株当たり情報

 

1株当たり情報については、以下のとおり定められています。

 

① 事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる株式

 

企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」9項の「潜在株式」として取り扱い、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱います。

 

② 株式引受権

 

1株当たり純資産額の算定上、企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」35項の期末の純資産額の算定にあたっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除します。

 

7.適用時期等

 

改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています。

 

2021年3月期有価証券報告書における収益認識会計基準の適用

収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が原則となります。早期適用も認められています。

 

1.2021年3月期における収益認識会計基準の早期適用

 

(1)原則適用

 

収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が原則となります。

 

(2)早期適用

 

① 2018年収益認識会計基準等

 

2019年4月1日以後開始事業年度からの早期適用が認められています。

 

② 2020年収益認識会計基準等

 

2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することが認められています。

 

(3)早期適用の類型

 

このため、2021年3月期における早期適用の類型には、以下の3つがあることになります。

 

① 2021年3月期の期首から2020年収益認識会計基準等を早期適用

 

② 2021年3月期の期首から2018年収益認識会計基準等のみを早期適用

 

③ 2018年収益認識会計基準等のみを過年度に早期適用済で、2021年3月期の期首から2020年収益認識会計基準等を早期適用

 

2. 2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合の留意事項

 

1)会計処理に関する経過措置

 

① 適用初年度の取扱い

 

A) 原則的な取扱い

 

収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています。

 

B) 経過措置

 

ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています。

 

C) 取り扱いのまとめ

 

適用初年度の取扱いをまとめたものが、以下の図です。

 

 

② 原則的な取扱いに従って遡及適用する場合

 

原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下A)、B)、C)の方法の1つ又は複数を適用することができるとされています。

遡及適用する企業においては、以下のいずれの方法で遡及適用するのか、早めの検討と対応が必要になると考えられます。

 

A) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の比較情報を遡及的に修正しないこと

 

B) 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

 

C) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

 

・履行義務の充足分及び未充足分の区分

・取引価格の算定

・履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

 

③ 適用初年度に経過措置を選択する場合

 

A) 適用初年度に2020年収益認識会計基準84項ただし書きの経過措置を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています。

 

B) 経過措置を選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています。

 

ア)適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②Cの3つの項目の処理を行うこと

 

イ)適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②Cの3つの項目の処理を行うこと

 

(2)表示及び注記

 

① 科目については、2020年収益認識会計基準の適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。

 

② また、2020年収益認識会計基準等の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準等において定める以下の注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。

 

A) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益とを区分して損益計算書に表示しない場合における顧客との契約から生じる収益の額の注記

 

B) 契約資産と顧客との契約から生じた債権とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、それぞれの残高の注記(また、契約負債と他の負債とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、契約負債の残高の注記)

 

C) 重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記

 

3.2018年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合の留意事項

 

(1)会計処理

 

① 2018年収益認識会計基準等を早期適用済の会社が、2021年3月期から2020年収益認識会計基準を早期適用する場合には、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります。

 

② ただし、2020年収益認識会計基準等では、主に表示及び開示に関する定めが追加されていることから、2018年収益認識会計基準を早期適用している場合には、2020年収益認識会計基準の適用による会計処理への影響は、契約資産の性質の見直しや適用範囲の見直しに限られており、限定的であるものと考えられます。

 

③ さらに、経過措置として、将来にわたり新たな会計方針を適用することができるとされています。

 

2)表示及び注記

 

① 2020年収益認識会計基準の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準の適用により表示方法(注記による開示も含む。)の変更が生じる場合には、遡及会計基準14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。

 

② また、以下に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。

 

A) 顧客との契約から生じる収益とそれ以外の収益とを区分して損益計算書に表示しない場合における顧客との契約から生じる収益の額の注記

 

B) 契約資産と顧客との契約から生じた債権とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、それぞれの残高の注記(また、契約負債と他の負債とを区分して貸借対照表に表示しない場合における、契約負債の残高の注記)

 

C) 重要な会計方針の注記と収益認識に関する注記

 

4.2020年収益認識会計基準の概要

 

2018年3月30日に2018年収益認識会計基準等が公表され、2020年3月31日に、主に、表示及び注記事項を改正する2020年収益認識会計基準等が公表されています。

 

(1)適用時期及び経過措置

 

① 原則適用

 

2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用(2018年収益認識会計基準等と同じ)されます。

 

② 早期適用

 

A) 2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが認められています。

 

B) 2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することが認められています。

 

③ 経過措置

 

A) 適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む。)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む。)について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができます。

 

B) 2020年収益認識会計基準等の適用初年度においては、2020年収益認識会計基準等において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができます。

 

2)基本的な方針

 

2020年収益認識会計基準では、開示目的を定めた上で企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとした方が、より有用な情報を提供できるとして、注記事項の開発にあたっての基本的な方針として、次の対応が行われています。

 

① 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを含めています

また、原則として、IFRS第15号の注記事項のすべての項目を含めています

 

② 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にしています

 

(3)2020年収益認識会計基準の改正の概要

 

① 表示に関する定めの追加

 

以下の項目が追加されています。

 

A) 損益計算書の表示科目

B) 重要な金融要素が含まれる場合の取扱い

C) 貸借対照表の表示科目

D) 契約資産の性質に関する取扱いの見直し等

E) 適用初年度の取扱い

 

② 注記に関する定めの追加

 

以下の項目が追加されています。

 

A) 重要な会計方針の注記

B) 収益認識に関する注記

ア)収益の分解情報

イ)収益を理解するための基礎となる情報

ウ)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

C) 工事契約等から損失が見込まれる場合

 

③ その他

 

以下の取り扱いが定められています。

 

A) 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表の取扱い

B) 四半期財務諸表における取扱い

C) 追加された設例

 

コーポレートガバナンス・コード等の改訂の趣旨及びその基本的考え方

2021年4月6日に、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」より「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」が公表されました。

 

1.改訂の趣旨

 

企業がより高度なガバナンスを発揮する後押しをするために、 2020年12月に「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」(「スチュワードシップ・コード及びコーポレー卜ガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5))(以下、「意見書(5)」といいます。)が公表されました。

 

その後も、フォローアップ会議において、サステナビリティやグループガバナンス、監査に対する信頼性の確保をはじめとする項目についても議論・検討を重ねてきました。

今回、これらの項目について、意見書(5)の内容に加えて、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下で、コーポレートガバナンス・コード(以下、「本コード」という。)の改訂が提言されました。

 

また、企業と機関投資家の建設的な対話を一層実効的なものとするため、本コードの改訂に併せ、「投資家と企業の対話ガイドライン」(以下、「対話ガイドライン」 という。)の改訂も提言されました(以下、本コードの具体的な改訂案と併せて「本改訂案」といいます)。

 

2.改訂の考え方

 

本改訂案は、取締役会の機能発揮・企業の中核人材における多様性の確保・サステナビリティを巡る課題への取組みに加え、グループガバナンスの在り方や監査に対する信頼性の確保、株主総会等に関する事項も含んでいます。

本改訂案についての基本的な考え方は、以下のようになっています。

 

(1)取締役会の機能発揮

 

取締役会は経営者による迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが求められています。

 

①独立社外取締役の人数

「我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場」であるプライム市場の上場会社においては、独立社外取締役が3分の1以上になるように選任します。

 

それぞれの経営環境や事業特性等を勘案し、必要と考える場合には、独立社外取締役の過半数の選任の検討が行われることが重要となります。

 

②「スキル・マトリックス」の開示

取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることが重要です。

 

そのためには、上場会社は、経営戦略上の課題に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを開示することが重要です。いわゆる「スキル・マトリックス」です。

 

③独立社外取締役のスキル

独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められています。この観点から、他社での経営経験を有する者を含めることが重要となります。

 

④CEOの選解任

経営陣において特に中心的な役割を果たすのはCEOであり、その選解任は、企業にとって最も重要な戦略的意思決定です。

 

こうした点も踏まえ、前回の本コードの改訂においては、指名委員会・報酬委員会など独立した諮問委員会の設置に向けた記載が盛り込まれました。

 

取締役会の機能発揮をより実効的なものとする観点から、プライム市場上場会社においては構成員の過半数を独立社外取締役が占めることを基本とする指名委員会・報酬委員会を設置することが重要となります。

 

⑤指名委員会・報酬委員会の権限・役割等

指名委員会や報酬委員会は、CEOのみならず取締役の指名や後継者計画、そして企業戦略と整合的な報酬体系の構築にも関与することが望まれます。

指名委員会・報酬委員会の権限・役割等を明確化することが、指名・報酬などに係る取締役会の透明性の向上のために重要となります。

 

⑥社外取締役と機関投資家の対話

独立社外取締役を含む取締役が対話を通じて機関投資家の視点を把握・認識することは、資本提供者の目線から経営分析や意見を吸収し、持続的な成長に向けた健全な起業家精神を喚起する上で重要です。

依然、独立社外取締役との建設的な対話が進まないとの指摘もされているところです。

株主との面談の対応者について、株主の希望と面談の主な関心事項に的確に対応できるよう、例えば、筆頭独立社外取締役の設置など、適切に取組みを行うことも重要です。

 

⑦取締役会議長

各社ごとのガバナンス体制の実情を踏まえ、必要に応じて独立社外取締役を取締役会議長に選任すること等を通じて、取締役会による経営に対する監督の実効性を確保することも重要です。

 

(2)企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

 

企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現する上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められます。

我が国企業を取り巻く状況等を十分に認識し、取締役会や経営陣を支える管理職層においてジェンダー・国際性・職歴・年齢等の多様性が確保され、それらの中核人材が経験を重ねながら、取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが極めて重要です。

 

こうした多様性の確保に向けては、取締役会が、主導的にその取組みを促進し監督することが期待されます。

 

①多様性の状況の開示

多様性の確保を促すためにも、上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況の開示を行うことが重要となります。

 

②多様性確保の方針・実施状況の開示

多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示することも重要です。

 

(3)サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

 

中長期的な企業価値の向上に向けては、リスクとしてのみならず収益機会としてもサステナビリティを巡る課題へ積極的・能動的に対応することの重要性は高まっています。

 

また、サステナビリティに関しては、従来からE (環境)の要素への注目が高まっているところですが、それに加え、近年、人的資本への投資等のS (社会)の要素の重要性も指摘されています。

 

人的資本への投資に加え、知的財産に関しても、国際競争力の強化という観点からは、より効果的な取組みが進むことが望ましいとの指摘もされています。

 

①サステナビリティの取組

取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定することが求められます。

加えて、上場会社は、例えば、サステナビリティに関する委員会を設置するなどの枠組みの整備や、ステークホルダーとの対話等も含め、サステナビリティへの取組みを全社的に検討・推進することが重要となります。

 

②経営資源の配分

企業の持続的な成長に向けた経営資源の配分に当たっては、人的資本への投資や知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいとの指摘もあります。人的資本や知的財産への投資等をはじめとする経営資源の配分等が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うことが必要となります。

 

③サステナビリティに関する開示

投資家と企業の間のサステナビリティに関する建設的な対話を促進する観点からは、サステナビリティに関する開示が行われることが重要です。

 

特に、気候変動に関する開示については、現時点において、TCFD提言が国際的に確立された開示の枠組みとなっています。

また、国際会計基準の設定主体であるIFRS財団において、TCFDの枠組みにも拠りつつ、気候変動を含むサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進められています。

 

④気候変動に関する開示

比較可能で整合性の取れた気候変動に関する開示の枠組みの策定に向け、我が国もこうした動きに積極的に参画することが求められます。

今後、IFRS財団におけるサステナビリティ開示の統一的な枠組みがTCFDの枠組みにも拠りつつ策定された場合には、これがTCFD提言と同等の枠組みに該当するものとなることが期待されます。

 

(4)その他個別の項目

 

①グループガバナンスの在り方

支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはなりません。支配株主を有する上場会社においては、より高い水準の独立性を備えた取締役会構成の実現や、支配株主と少数株主との利益相反が生じ得る取引・行為のうち、重要なものについては独立した特別委員会における審議・検討を通じて、少数株主保護を図ることが求められます。

 

特に、支配株主を有する上場会社においては、独立社外取締役の比率及びその指名の仕組みについて、取締役会として支配株主からの独立性と株主共同の利益の保護を確保するための手立てを講ずることが肝要です。

 

②監査に対する信頼性の確保及び内部統制リスク管理

中長期的な企業価値の向上を実現する上では、その基礎として、監査に対する信頼性の確保が重要です。

 

A) 内部監査と取締役会等との連携

 

内部監査部門が、CEO等のみの指揮命令下となっているケースが大半を占め、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていないのではないかとの指摘がされています。

こうした指摘も踏まえれば、上場会社においては、取締役会・監査等委員会・監査委員会や監査役会に対しても直接報告が行われる仕組みが構築されること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携が図られることが重要となります。

 

B) 内部通報制度

 

内部通報制度の運用の実効性の確保のため、内部通報に係る体制・運用実績について開示・説明する際には、それが分かりやすいものとなっていることも重要です。

 

C) 内部統制・リスク管理体制の整備

 

内部統制やリスク管理については、取締役会による内部統制やリスク管理体制の適切な整備が求められています。

その際には、企業価値の向上の観点から企業として引き受けるリスクを取締役会が適切に決定・評価する視点の重要性や、内部統制やリスク管理をガバナンス上の問題としてより意識して取締役会で取り扱うことの重要性を念頭に置いた指摘がされています。

 

③株主総会関係

上場会社は、株主総会での意思決定のためのプロセス全体を建設的かつ実質的なものとするよう、株主がその権利を行使することができる適切な環境の整備と、情報提供の充実に取り組むことが求められます。

 

A) 英文開示・議決権電子行使

 

プライム市場上場会社は、必要とされる情報についての英文開示や議決権電子行使プラットフォームの整備を行うことが重要です。

 

B) 株主総会資料・日程

 

株主の利便性に配慮した媒体で株主総会資料の電子的公表を早期に行うことや、決算・監査のための時間的余裕の確保等の観点も鑑みて株主総会関連の日程の設定を行うことについても検討が進められることが望まれます。

 

C) 反対票への対応等

 

株主総会において相当数の反対票が投じられた会社提案議案について、機関投資家との対話の際に原因分析の結果や対応の検討結果について分かりやすく説明することが投資家との建設的な対話に資すると考えられます。

 

④上記以外の主要課題

 

A) 事業ポートフォリオ

 

事業セグメントごとの資本コストも踏まえた事業ポートフォリオの検討を含む経営資源の配分が一層必要となっています。

取締役会は、事業ポートフォリオに関する基本的な方針の決定・適時適切な見直しを行うべきであり、これらの方針や見直しの状況を株主の理解が深まるような形で具体的に分かりやすく説明することが求められます。

また、グループ経営をする上場会社は、グループ経営に関する考え方・方針について説明する場合も、具体的に分かりやすく行うことが重要です。

 

B) 政策保有株式

 

政策保有株式の更なる縮減についても課題となりますが、政策保有株式の保有効果の検証方法について開示の充実を図ることも機関投資家との対話に資すると考えられます。

 

C) 監査役と機関投資家の面談

 

監査役も取締役と同じく株主への受託者責任を有するので、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、機関投資家との面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、面談に臨むことを基本とすべきです。

 

3.本コードの改訂の適用について

 

(1)新市場区分への対応

 

2022年4月より、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となります。

本コードの改訂案の原則・補充原則においても、新市場区分に沿って、プライム市場上場会社に求める項目、その他の市場の上場会社に求める項目、そして両者に共通して求める項目が存在します。

 

(2)コーポレートガバナンス報告書

 

上場会社は、遅くとも本年12月までに、本コードの改訂に沿ってコーポレートガバナンス報告書の提出を行うことが望まれます。

 

また、プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、準備期間等も考慮し、2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後速やかにこれらの原則等に関する事項について記載した同報告書を提出するよう求めることが考えられます。

これらの提出時期については、東京証券取引所において、具体的に検討がされることが求められます。

 

 

「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の公表

2021年4月6日に、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」より「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」が公表されました。

 

1.改訂の趣旨

 

企業がより高度なガバナンスを発揮する後押しをするために、 2020年12月に「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」(「スチュワードシップ・コード及びコーポレー卜ガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5))(以下、「意見書(5)」といいます。)が公表されました。

 

その後も、フォローアップ会議において、サステナビリティやグループガバナンス、監査に対する信頼性の確保をはじめとする項目についても議論・検討を重ねてきました。

今回、これらの項目について、意見書(5)の内容に加えて、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下で、コーポレートガバナンス・コード(以下、「本コード」という。)の改訂が提言されました。

 

また、企業と機関投資家の建設的な対話を一層実効的なものとするため、本コードの改訂に併せ、「投資家と企業の対話ガイドライン」(以下、「対話ガイドライン」 という。)の改訂も提言されました(以下、本コードの具体的な改訂案と併せて「本改訂案」といいます)。

 

2.改訂の考え方

 

本改訂案は、取締役会の機能発揮・企業の中核人材における多様性の確保・サステナビリティを巡る課題への取組みに加え、グループガバナンスの在り方や監査に対する信頼性の確保、株主総会等に関する事項も含んでいます。

本改訂案についての基本的な考え方は、以下のようになっています。

 

(1)取締役会の機能発揮

 

取締役会は経営者による迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが求められています。

 

①独立社外取締役の人数

「我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場」であるプライム市場の上場会社においては、独立社外取締役が3分の1以上になるように選任します。

 

それぞれの経営環境や事業特性等を勘案し、必要と考える場合には、独立社外取締役の過半数の選任の検討が行われることが重要となります。

 

②「スキル・マトリックス」の開示

取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることが重要です。

 

そのためには、上場会社は、経営戦略上の課題に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを開示することが重要です。いわゆる「スキル・マトリックス」です。

 

③独立社外取締役のスキル

独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められています。この観点から、他社での経営経験を有する者を含めることが重要となります。

 

④CEOの選解任

経営陣において特に中心的な役割を果たすのはCEOであり、その選解任は、企業にとって最も重要な戦略的意思決定です。

 

こうした点も踏まえ、前回の本コードの改訂においては、指名委員会・報酬委員会など独立した諮問委員会の設置に向けた記載が盛り込まれました。

 

取締役会の機能発揮をより実効的なものとする観点から、プライム市場上場会社においては構成員の過半数を独立社外取締役が占めることを基本とする指名委員会・報酬委員会を設置することが重要となります。

 

⑤指名委員会・報酬委員会の権限・役割等

指名委員会や報酬委員会は、CEOのみならず取締役の指名や後継者計画、そして企業戦略と整合的な報酬体系の構築にも関与することが望まれます。

指名委員会・報酬委員会の権限・役割等を明確化することが、指名・報酬などに係る取締役会の透明性の向上のために重要となります。

 

⑥社外取締役と機関投資家の対話

独立社外取締役を含む取締役が対話を通じて機関投資家の視点を把握・認識することは、資本提供者の目線から経営分析や意見を吸収し、持続的な成長に向けた健全な起業家精神を喚起する上で重要です。

依然、独立社外取締役との建設的な対話が進まないとの指摘もされているところです。

株主との面談の対応者について、株主の希望と面談の主な関心事項に的確に対応できるよう、例えば、筆頭独立社外取締役の設置など、適切に取組みを行うことも重要です。

 

⑦取締役会議長

各社ごとのガバナンス体制の実情を踏まえ、必要に応じて独立社外取締役を取締役会議長に選任すること等を通じて、取締役会による経営に対する監督の実効性を確保することも重要です。

 

(2)企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

 

企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現する上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められます。

我が国企業を取り巻く状況等を十分に認識し、取締役会や経営陣を支える管理職層においてジェンダー・国際性・職歴・年齢等の多様性が確保され、それらの中核人材が経験を重ねながら、取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが極めて重要です。

 

こうした多様性の確保に向けては、取締役会が、主導的にその取組みを促進し監督することが期待されます。

 

①多様性の状況の開示

多様性の確保を促すためにも、上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況の開示を行うことが重要となります。

 

②多様性確保の方針・実施状況の開示

多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示することも重要です。

 

(3)サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

 

中長期的な企業価値の向上に向けては、リスクとしてのみならず収益機会としてもサステナビリティを巡る課題へ積極的・能動的に対応することの重要性は高まっています。

 

また、サステナビリティに関しては、従来からE (環境)の要素への注目が高まっているところですが、それに加え、近年、人的資本への投資等のS (社会)の要素の重要性も指摘されています。

 

人的資本への投資に加え、知的財産に関しても、国際競争力の強化という観点からは、より効果的な取組みが進むことが望ましいとの指摘もされています。

 

①サステナビリティの取組

取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定することが求められます。

加えて、上場会社は、例えば、サステナビリティに関する委員会を設置するなどの枠組みの整備や、ステークホルダーとの対話等も含め、サステナビリティへの取組みを全社的に検討・推進することが重要となります。

 

②経営資源の配分

企業の持続的な成長に向けた経営資源の配分に当たっては、人的資本への投資や知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいとの指摘もあります。人的資本や知的財産への投資等をはじめとする経営資源の配分等が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うことが必要となります。

 

③サステナビリティに関する開示

投資家と企業の間のサステナビリティに関する建設的な対話を促進する観点からは、サステナビリティに関する開示が行われることが重要です。

 

特に、気候変動に関する開示については、現時点において、TCFD提言が国際的に確立された開示の枠組みとなっています。

また、国際会計基準の設定主体であるIFRS財団において、TCFDの枠組みにも拠りつつ、気候変動を含むサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進められています。

 

④気候変動に関する開示

比較可能で整合性の取れた気候変動に関する開示の枠組みの策定に向け、我が国もこうした動きに積極的に参画することが求められます。

今後、IFRS財団におけるサステナビリティ開示の統一的な枠組みがTCFDの枠組みにも拠りつつ策定された場合には、これがTCFD提言と同等の枠組みに該当するものとなることが期待されます。

 

(4)その他個別の項目

 

①グループガバナンスの在り方

支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはなりません。支配株主を有する上場会社においては、より高い水準の独立性を備えた取締役会構成の実現や、支配株主と少数株主との利益相反が生じ得る取引・行為のうち、重要なものについては独立した特別委員会における審議・検討を通じて、少数株主保護を図ることが求められます。

 

特に、支配株主を有する上場会社においては、独立社外取締役の比率及びその指名の仕組みについて、取締役会として支配株主からの独立性と株主共同の利益の保護を確保するための手立てを講ずることが肝要です。

 

②監査に対する信頼性の確保及び内部統制リスク管理

中長期的な企業価値の向上を実現する上では、その基礎として、監査に対する信頼性の確保が重要です。

 

A)内部監査と取締役会等との連携

 

内部監査部門が、CEO等のみの指揮命令下となっているケースが大半を占め、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていないのではないかとの指摘がされています。

こうした指摘も踏まえれば、上場会社においては、取締役会・監査等委員会・監査委員会や監査役会に対しても直接報告が行われる仕組みが構築されること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携が図られることが重要となります。

 

B)内部通報制度

 

内部通報制度の運用の実効性の確保のため、内部通報に係る体制・運用実績について開示・説明する際には、それが分かりやすいものとなっていることも重要です。

 

C)内部統制・リスク管理体制の整備

 

内部統制やリスク管理については、取締役会による内部統制やリスク管理体制の適切な整備が求められています。

その際には、企業価値の向上の観点から企業として引き受けるリスクを取締役会が適切に決定・評価する視点の重要性や、内部統制やリスク管理をガバナンス上の問題としてより意識して取締役会で取り扱うことの重要性を念頭に置いた指摘がされています。

 

③株主総会関係

上場会社は、株主総会での意思決定のためのプロセス全体を建設的かつ実質的なものとするよう、株主がその権利を行使することができる適切な環境の整備と、情報提供の充実に取り組むことが求められます。

 

A)英文開示・議決権電子行使

 

プライム市場上場会社は、必要とされる情報についての英文開示や議決権電子行使プラットフォームの整備を行うことが重要です。

 

B)株主総会資料・日程

 

株主の利便性に配慮した媒体で株主総会資料の電子的公表を早期に行うことや、決算・監査のための時間的余裕の確保等の観点も鑑みて株主総会関連の日程の設定を行うことについても検討が進められることが望まれます。

 

C)反対票への対応等

 

株主総会において相当数の反対票が投じられた会社提案議案について、機関投資家との対話の際に原因分析の結果や対応の検討結果について分かりやすく説明することが投資家との建設的な対話に資すると考えられます。

 

④上記以外の主要課題

 

A)事業ポートフォリオ

 

事業セグメントごとの資本コストも踏まえた事業ポートフォリオの検討を含む経営資源の配分が一層必要となっています。

取締役会は、事業ポートフォリオに関する基本的な方針の決定・適時適切な見直しを行うべきであり、これらの方針や見直しの状況を株主の理解が深まるような形で具体的に分かりやすく説明することが求められます。

また、グループ経営をする上場会社は、グループ経営に関する考え方・方針について説明する場合も、具体的に分かりやすく行うことが重要です。

 

B)政策保有株式

 

政策保有株式の更なる縮減についても課題となりますが、政策保有株式の保有効果の検証方法について開示の充実を図ることも機関投資家との対話に資すると考えられます。

 

C)監査役と機関投資家の面談

 

監査役も取締役と同じく株主への受託者責任を有するので、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、機関投資家との面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、面談に臨むことを基本とすべきです。

 

3.本コードの改訂の適用について

 

(1)新市場区分への対応

 

2022年4月より、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となります。

本コードの改訂案の原則・補充原則においても、新市場区分に沿って、プライム市場上場会社に求める項目、その他の市場の上場会社に求める項目、そして両者に共通して求める項目が存在します。

 

(2)コーポレートガバナンス報告書

 

上場会社は、遅くとも本年12月までに、本コードの改訂に沿ってコーポレートガバナンス報告書の提出を行うことが望まれます。

 

また、プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、準備期間等も考慮し、2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後速やかにこれらの原則等に関する事項について記載した同報告書を提出するよう求めることが考えられます。

これらの提出時期については、東京証券取引所において、具体的に検討がされることが求められます。

 

企業価値評価と経営指標(KPI)~企業価値評価モデル、ROE、ROA、ROIC、資本コスト等

「コーポレートガバナンス・コード」(金融庁・東京証券取引所、2018年6月改訂)では、自社の資本コストを的確に把握し、収益計画や資本政策の基本方針を示し、収益力・資本効率等に関する指標を提示し、具体的な実行策を株主にわかりやすい言葉・論理で明確に説明すべきであるとしています。

また、「記述情報の開示に関する原則」(金融庁、2019年3月)では、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(KPI)には、ROE、ROICなどの財務上の指標のほか、非財務情報も含まれるとしています。

そして、KPIを設定している場合には、その内容として、目標の達成度合いを測定する指標、算出方法、なぜその指標を利用するのかについて説明することが考えられるとしています。

 

Ⅰ.企業価値評価モデルの類型

 

企業価値評価には、以下のようなモデルがあります。

 

1.乗数モデル

 

(1)PER:株価純利益倍率をもとに算出する方法

 

①株価÷EPS(一株当たり純利益)=PERの業界平均

 

②当社EPS×業界平均PER=1株当たり株式価値

 

(2)PBR:株価自己資本倍率をもとに算出する方法

 

①株価÷BPS(一株当たり純資産)=PBRの業界平均

 

②当社BPS×業界平均PBR=1株当たり株式価値

 

 

2.割引現在価値モデル

 

(1)割引キャッシュフロー・モデル(DCFM: Discounted Cash Flow Model)をもとに算出する方法

 

DCFM:事業投資の価値=将来キャッシュフローの割引現在価値の合計

 

事業投資の価値(DCFM)+金融投資の時価-有利子負債の価値=自己資本の価値(株式価値)

 

(2)配当割引モデル(DDM: Discounted Dividend Model)

 

将来の配当を予測し、自己資本コストで将来配当予測額を割り引いて将来の配当の割引現在価値の合計を算出する方法

 

(3)残余利益モデル(RIM:Residual Income Model)

 

①株式価値が、期末の自己資本簿価と将来の残余利益の割引現在価値の合計に等しいとするモデル。

 

②残余利益とは、期首の自己資本を所定の割引率で運用した場合に得られるであろう正常利益を登記の実績利益が上回る部分をいう。

 

③算定式

 

株式価値=自己資本+(純利益-(自己資本コスト×自己資本))÷(1+自己資本コスト)

+(純利益-(自己資本コスト×自己資本))÷(1+自己資本コスト)+・・・・

 

(上記式を展開)

株式価値=((ROE-自己資本コスト)×自己資本)÷(1+自己資本コスト)

+((ROE-自己資本コスト)×自己資本)÷(1+自己資本コスト)2+・・・・

 

(4)割引現在価値モデルの比較

 

 

Ⅱ.企業価値評価におけるKPIの種類

 

企業価値評価における重要な要素で収益性尺度となるものには、以下のものがあります。

 

1.ROE(Return on Equity):自己資本純利益倍率

 

(1)計算式

 

ROE=親会社株主に帰属する当期純利益÷自己資本(*1)

 

*1: 自己資本=株主資本+その他の包括利益累計額(*2)

 

*2: その他の包括利益累計額:その他有価証券評価差額金等

 

(展開)

 

ROE(純利益÷自己資本)=売上高純利益率(純利益÷売上高)×総資本回転率(売上高÷総資本)×財務レバレッジ(総資本÷自己資本)

 

(2)長所・短所

 

① 長所

 

株式価値評価モデル(RIM)に明示的に組み込まれているので、株価との関連性が明確

 

② 短所

 

自己資本の調整で操作可能

 

2.ROA(Return on Asset):総資本事業利益率

 

(1)計算式

 

ROA=事業利益(*1)÷総資本

 

*1: 事業利益=営業利益+持分法利益+金融収益(*2)

 

*2: 金融収益=受取利息配当金+有価証券運用損益

 

(2)長所・短所

 

①長所

 

ROEと比べて操作されにくい

 

②短所

 

・企業価値評価モデルに組み込まれていない

・WACCとの比較がしづらい

・運転資金による効果が反映されない

 

3.ROIC (Return on Invested Capital):投下資本税引後営業利益率

 

(1)計算式

 

ROIC=税引後営業利益(*1)÷投下資本(*2)

 

*1: 税引後営業利益:債権者と株主の期待リターンの支払い原資となるので支払利息控除前かつ税引後の利益となる

 

*2: 投下資本=有利子負債+自己資本

 

(展開)

ROIC(税引後営業利益÷投下資本)=売上高税引後営業利益率(税引後営業利益÷売上高)×投下資本回転率(売上高÷投下資本)

 

(2)長所・短所

 

①長所

 

・資本調整しても利益率は変わらない

・運転資金の効果が反映される

・WACCとの比較が可能

 

②短所

 

・理論モデルに組み込まれていない

・自己資本価値算定にはWACCの計算が必要

 

Ⅲ.株式価値評価のKPIと資本コスト

 

1.資本コスト

 

資本には、自己資本と他人資本があります。自己資本には自己資本コスト、他人資本には有利子負債利子率がコストになります。

 

(1)自己資本コスト

 

自己資本コストの算定には、資本資産価格形成モデル(CAPM:Capital Asset Pricing Model)が使われることが多いようです。

 

自己資本コスト(期待リターン)=リスク負担に対する報酬+消費の延期に対する報酬

 

=無リスク利子率2.5%(10年物国債利率過去31年平均+リスクプレミアム4.5%(過去30年平均)×β値(*1)

 

*1: β値=過去2年間の個社の週次投資収益率を縦軸、市場全体の週次投資収益率を横軸として、最小二乗法を適用した時の傾き

 

(2)有利子負債利子率

 

有利子負債利子率=(支払利息×(1-法定実効税率)+非支配株主に帰属する当期純利益)÷有利子負債の期中平均残高

 

有利子負債=負債+非支配株主持ち分

 

(3)加重平均資本コスト(WACC: weight average cost of capital)

 

自己資本コストと有利子負債利子率を有利子負債と自己資本の期末残高で加重平均したものになります。

 

自己資本の残高は、時価ベースです。

 

2.ROEと自己資本コスト

 

(1)ROEが高いほど、他の条件が一定とすると株式価値が高くなります。

 

(2)株式価値を高めるためには、現在のROEではなく、将来のROEを高める必要があります。

 

(3)ROEのベンチマークは、自己資本コストとなります。

 

ROE>自己資本コストの場合、「株式価値>自己資本」となり価値が生み出されていることになります。

ROE<自己資本コストの場合は、反対に、価値が棄損していることになります。

 

3.ROICと加重平均資本コスト

 

ROICと加重平均資本コストの関係は、ROEと自己資本コストの関係と同様です。

 

ROIC>加重平均資本コストの場合、「事業価値>投下資本」となり価値が生み出されていることになります。

 

Ⅳ まとめ

 

企業価値評価を行う上で、以下の留意点があります。

 

(1)企業価値を見る場合には、売上高や純利益などの量的側面だけでなく、資本の効率性にも着目する必要があります。

 

(2)資本の効率性を見る観点では、株式価値との関連性が明確なROEと投資の管理としてのROICが有益です。

 

(3)ROEとROICのベンチマークは、「自己資本コスト」と「加重平均資本コスト」になります。

 

(4)投資の意思決定、事業部門の業績評価、事業からの撤退決定には、首尾一貫した基準を採用する必要があります。

例:ROIC-WACC等

 

(4)企業価値評価にとって重要なことは、将来の純利益等の見積もりになります。

したがって、将来の純利益に影響を与えうる項目については、徹底した分析を行う必要があります。