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偶発事象はどのように扱えばよいのでしょうか?~「偶発事象の会計処理および開示に関する研究報告(公開草案)」より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しています。

 

本公開草案の主な検討内容

日本公認会計士協会は、我が国のこれまでの偶発事象に関する会計上の考え方を整理するとともに、主として次のような検討を行っています。

 

1.我が国の偶発事象に関する現在の会計上の取扱いについての考察

 

2.有価証券報告書に記載されている偶発事象関連の引当金の計上の状況や貸借対照表

の注記における開示状況の調査と、偶発事象を財務諸表に開示又は引当金を認識する時点のタイミングについての考察

 

3.IFRSの概要の確認とIFRSを任意適用している我が国の企業の実務についての考察

 

検討内容

偶発事象については、時間の経過とともに、損失の発生の可能性についての判断の精度と損失金額の見積りの精度は両者ともに高まると考えられるため、監査・保証実務委員会実務指針第61号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」(最終改正:平成23年3月29日)(以下「監保実第61号」という。)の取扱いを偶発債務に広く適用すれば、時間が経過するにつれて、企業は、開示不要という状況から偶発債務の注記、その後の引当金の計上の会計処理をするという基本的な考え方が示されています。

 

しかし、今回の日本公認会計士協会の調査によれば、訴訟、違法行為及び損害補償の事象については、引当金を計上する前に、貸借対照表に偶発債務に係る注記を行う事例は少数にとどまっていることが確認されています。

 

今後の取扱いとしては、監保実第61号を、債務保証及び保証類似行為以外の偶発債務の会計処理の参考にすることが考えられる旨と、以下の留意点が示されています。

 

  1. 監保実第61号は、平成23年3月に改正を行ってはいるものの、平成11年2月に公表されたものであり、既に公表から長い時間が経っているため、当時の考え方が現在においても適切であるかを検討する必要がある旨
  2. この検討に当たっては、現在、我が国においては存在していない偶発事象全般に関する会計基準を新たに開発することを目標に検討されることが望ましい旨
  3. この検討に当たっては、①財務諸表の比較可能性 ②開示の適切性 ③開示の充実の観点についても考慮すべきである旨

 

①財務諸表の比較可能性

財務諸表の比較可能性という観点からは、どの程度の発生可能性をもって注記による開示をすべきなのか、引当金を計上すべきなのかの基準が揃っていないと、同じような事象であっても企業によって注記の有無が異なり、結果として財務諸表の比較可能性が損なわれることから、どの程度の損失の発生可能性と損失金額の見積りの可能性があれば、注記による開示や引当金の計上を要するのかについての指針(ガイダンス)を提供することが有効である旨が記載されています。

 

② 開示の適切性

仮に財務諸表利用者への迅速な情報開示という観点をより優先するのであれば、訴訟や違法行為、損害補償の事象が発生したことをもって、発生した事実については、網羅的に偶発事象の注記を求めるという取扱いが考えられる旨が記載されています。

その一方で、係争事件に係る賠償義務のような偶発債務については、訴訟を受けた時点や賠償責任の可能性が生じた初期段階では、負担となる可能性及び金額の見積りを行うには、情報が不十分であり、引当金の計上及び注記による開示のいずれであっても、財務諸表の利用者に対して不正確・不確実な情報を提供する可能性があることから、情報開示の適時性の側面と正確性・確実性の側面のバランスに留意する必要がある旨が記載されています。

 

また、有価証券報告書の【経理の状況】の「その他」や、IFRSにおける取扱いについても記載されています。

 

③ 開示の充実

財務諸表利用者の予測可能性を高めるために、注記や引当金計上を行うに当たっては、何を契機に注記や引当金計上が必要と判断したのかについての企業の判断を併せて記載することが、財務諸表を理解する上で有用である旨が記載されています。

 

一方で、訴訟関連、違法行為関連及び損害補償関連のような偶発債務については、その事実を開示することにより、企業に不利な影響をもたらす可能性があるとの指摘が記載されています。

時系列分析の結果によれば、実際に、偶発債務についての注記を開示している企業の数が極めて少数となっていることから、企業の立場が著しく不利になると予想できる場合、係争の全般的な内容と情報を開示しなかった旨及びその理由を記載した上で、開示を免除するというような配慮を定めることも有用である可能性がある旨が記載されています。

 

適用時期等

研究報告は、実務指針と異なり、規範性はないため、あくまで参考としての位置付けとなります。

また、研究報告という性格から適用時期は特に示されていませんが、公表日から適用となるものと考えられます。

税務に関するコーポレートガバナンスの充実について~税務リスクの軽減と税務調査の負担軽減

「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組について」が 国税庁調査課から平成28年7月に公表されました。

 

取組の趣旨

 

大企業の税務コンプライアンスの維持・向上には、トップマネジメントの積極的な関与・指導の下、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要、かつ、効果的であることから、その充実を促進するものです。

 

税務に関するコーポレートガバナンス:税務についてトップマネジメントが自ら適正申告の確保に積極的に関与し、必要な内部統制を整備すること

税務コンプライアンス:納税者が納税義務を自発的かつ適正に履行すること

トップマネジメント:法人の代表取締役、代表執行役のほか、法人の業務に関する意思決定を行う経営責任者等

 

取組の概要

① 税務コーポレートガバナンスの確認

② 税務コーポレートガバナンスの判定

③ トップマネジメントとの面談

④ 判定結果の活用、調査の機会を利用した働きかけ

 

上記、各事項を説明会等により会社に働きかけを行います。

 

① 税務に関するコーポレートガバナンスの確認

対象法人: 国税局特別国税調査官所掌法人

確認方法: 調査の機会を利用して、対象法人に「税務に関するコーポレートガバナンス確認表」の記載を依頼し、確認する。

 

② 税務に関するコーポレートガバナンスの判定

  • トップマネジメントの関与・指導
  • 経理・監査部門の体制・機能の整備・運用
  • 内部牽制の働く税務・会計処理手続の整備・運用
  • 税務に関する情報及び再発防止策の社内への周知
  • 不適切な行為の抑制策の整備・運用
  • 確認項目の評価・判定 ※ 税務調査への適切な対応・帳簿書類等の保存状況を勘案

 

③ トップマネジメントとの面談

面談の相手方: 調査法人のトップマネジメント

面談担当者:調査(査察)部長又は次長が担当、担当特官が同席

実施方法: トップマネジメントがリーダーシップを発揮して税務に関するコーポレートガバナンスの充実に取り組んでいくことを促すため、調査結果の概要を説明し、その是正事項の再発防止に向けた取組を含め、税務に関するコーポレートガバナンスについて、改善が必要な箇所に関して、効果的な取組事例を紹介しつつ、トップマネジメントとの意見交換を実施する

 

④ 税務に関するコーポレートガバナンスの判定結果の活用

調査必要度の判断材料への活用

税務に関するコーポレートガバナンスの判定結果は、特別国税調査官所掌法人の調査必要度の重要な判断材料の一つとして活用

 

税務コーポレートガバナンスの状況が良好な法人への対応

税務に関するコーポレートガバナンスの状況が良好であり、調査結果に大口・悪質な是正事項がなく調査必要度が低いと判断される法人については、調査省略時に一般に国税当局と見解の相違が生じやすい取引を自主的に開示し、当局がその適正処理を確認することを条件に、次回調査までの調査間隔を1年延長

 

○ 自主開示事項の確認

調査間隔を延長した結果、一回の調査の事務負担が法人及び国税当局双方にとって過重にならないために実施

 

調査省略対象とする事業年度の申告書審理を行う過程において、一般に国税当局と見解の相違が生じやすい取引等を自主開示し、当局がその適正処理を確認

 

自主開示事項は、申告済の事業年度における以下に掲げる取引等の処理で、取引金額が多額のもの

・ 組織再編における適格組織再編か否かの判定

・ 特別損失計上取引の処理

・ 仮受金又は仮払金計上取引の処理 など

 

取組の効果等

大きな組織を有する大企業の税務コンプライアンスの維持・向上のためには、税務に関するコーポレートガバナンスの充実が重要です。

 

税務に関するコーポレートガバナンスが不十分であれば、事業部や支店、工場などの組織の第一線で不適切な経理処理が生じるリスクが高まります。

 

税務に関するコーポレートガバナンスの充実による税務コンプライアンスの向上は、企業・国税当局の双方にメリットがあります。

 

企業のメリット:税務リスクの軽減、税務調査対応の負担軽減

 

国税当局のメリット:調査必要度の高い法人への税務調査の重点化

 

企業がリストラクチャリングをした時に必要な会計の知識~事業構造改革引当金等の計上について

 

企業のリストラクチャリングに関連して、引当金の計上を検討する必要がある場合があります。

たとえば、事業構造改革引当金、店舗閉鎖損失引当金、事務所移転費用引当金などです。

 

1.概 要

リストラクチャリングの手段として、事業の整理(譲渡、統合、撤退等)や子会社等の整理(売却、清算等)、人員整理等が行われることがあります。

 

そのような事業構造の改善に関連して発生する費用又は損失のうち、引当金の要件を満たすものについては、リストラクチャリングに関連する引当金を計上する必要があります。

 

このような引当金は、総称して事業構造改革引当金という名称を用いて計上するケースが多く見受けられます。

 

また、リストラクチャリングの一環として、本社・事業所・工場・店舗等の移転又は閉鎖等を行うことがあります。この場合に発生する建物等の賃貸借契約の解約違約金等についても、引当金の要件を満たす場合には、引当金を計上する必要があります。

 

このような引当金は、具体的な内容を明らかにするため、店舗閉鎖損失引当金や事務所移転費用引当金等の名称を用いて計上するケースが多く見受けられます。

 

2.会計基準等

リストラクチャリングに伴い発生する費用又は損失には、固定資産の減損損失、子会社株式の評価損、人員整理に伴い発生する割増退職金等が含まれることがあります。

 

このような費用又は損失については、固定資産の減損損失については減損会計基準、子会社株式の減損については金融商品会計基準、割増退職金については退職給付会計基準といった関連する会計基準が適用されます。

 

上記以外の費用又は損失は、各々の会計基準では直接規定されていないものです。このうち金額を合理的に見積ることができるものについて、引当金の要件を満たすか否か検討する必要があります。

 

3.引当金の計上

企業会計原則注解18における引当金の計上要件に事業構造改革引当金等を当てはめると以下のようになります。

 

注解18の要件

事業構造改革引当金

将来の特定の費用又は損失である 将来において事業・子会社等の整理等が実行されることにより費用または損失が生じるものか
その発生が当期以前の事象に起因する 当期以前に生じた経営状況の悪化を改善するために行われるものか
発生の可能性が高い リストラクチャリング計画が取締役会等の意思決定機関で決議されたか
金額を合理的に見積ることが可能 リストラクチャリング計画の中で具体的な金額が明示されているか

 

引当金の計上要件を満たす時期としては、取締役会等の決議など会社としての意思決定がなされた時点となることが多いと考えられますが、実務上は個々の費用(損失)の性質を考慮して判断することになります。

 

4.引当金額の測定

金額の測定に当たっては、リストラクチャリングの対象となる拠点及び発生が見込まれる費用または損失が網羅的に把握されているかどうかを慎重に検討する必要があります。

 

ここでは代表的なリストラクチャリングに関連する費用または損失である事務所移転費用等や割増退職金の見積り方法について紹介します。

 

  • 解約違約金等

賃貸借契約を中途解約した場合に発生する解約違約金や解約不能期間の賃借料等は、個別の契約書に基づいて金額を見積ることになると考えられます。

 

  • 割増退職金

事業又は子会社等の整理に伴い従業員の早期退職の募集が行われる場合、その割増退職金は、従業員が早期退職制度に応募し、当該金額を合理的に見積ることができる時点で費用処理するとされています。

割増退職金の金額は、設定された希望退職制度の規程に従って要支出額を見積ることになると考えられます。

 

期末日現在では、希望退職制度の募集期間中である場合など、対象者が特定できない場合もあり、その見積りが困難なことも考えられます。その場合であっても期末日時点で入手可能な情報を関連部署等から網羅的に入手すること等により、金額を合理的に見積ることが可能か検討することが必要です。

なお、早期退職の募集期間が終了し退職者が確定した場合には、割増退職金は債務として確定していますので、引当金の取崩しが行われ、未払退職金等に振り替えられることになります。

 

5.他の会計基準との関係

①固定資産の耐用年数等の見積変更

リストラクチャリング計画に、固定資産の除売却が含まれている場合があります。

 

当該リストラクチャリング計画が取締役会によって承認決議がされた場合には、固定資産の減損の兆候に該当することになりますが、承認決議後も当該固定資産を一定期間継続して使用する場合には、耐用年数や残存価額の見積の変更を検討する必要もあります。

 

減損損失の認識・測定に至らなくても、耐用年数等の短縮等を実施しなくてはならないケースも出てくると考えられます。

 

②後発事象

決算日前にリストラクチャリング計画が決定されたが、実際のリストラクチャリング計画の実行が決算日後になった場合、後発事象に該当するか否かの検討が必要となります。

例えば、従業員に対する早期退職制度を募集する場合では、労働組合との関係等から計画通りに進まないこともあり、また、決算日をまたいで早期退職制度の募集が行われることも想定されます。

 

この決算日前に始まった募集期間が会計監査人の監査報告書日前までに終了する場合、財務諸表を修正する必要があるような修正後発事象に該当するか慎重に検討する必要があります。

事前交付型譲渡制限付株式 (リストリクテッド・ストック)の会計処理上の論点~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

1.事前交付型譲渡制限付株式 (リストリクテッド・ストック)のスキームの概要

 

① 事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)の定義と導入効果

譲渡制限付株式とは、一定期間の譲渡制限を設け株式を保有させる株式報酬です。

このうち、譲渡制限付株式を事前に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬制度ないし当該制度に用いられる株式を事前交付型譲渡制限付株式 (いわゆる、リストリクテッド・ストック)といいます。

この制度は、譲渡制限期間における勤務継続を条件とすることにより、経営者層のリテンション効果又は中長期の業績向上・株価上昇に向けたインセンティブ効果を期待するものです。

 

② 我が国におけるリストリクテッド・ストック導入までの流れ

現行の会社法上、 無償で株式を発行すること及び役務提供を対価として資本の払込みを行うことは認められないと解されていることから、従来、報酬として直接株式を付与する手法は採用されていませんでした。

平成27年経産省報告書において提示された解釈を基に、「金銭報酬債権の現物出資」という法的構成を採用することで、報酬として株式を付与する手法が事実上可能となったと考えられています。

 

③ 法的手続の概要

ア. 金銭報酬債権の付与及びその現物出資と株式の発行

金銭報酬債権の現物出資による株式の発行では、株主総会において対象となる役員等への金銭報酬債権付与の決議を経て、これらの役員等が当該金銭報酬債権を現物出資財産として払い込み、会社の株式の割当てを受けます。

この株式発行の手続を制度設定の当初に行うのが、事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)です。

 

イ. 譲渡制限付株式割当契約の締結

役員等は本制度において受け取る株式について、譲渡制限付株式割当契約を締結します。

当該契約では一定期間の譲渡制限期間が設定され、譲渡制限期間中の株式譲渡、担保権の設定その他の処分が禁止されることとなります。

なお、譲渡制限契約の締結の代わりに種類株式として譲渡制限付株式を発行することも可能ですが、手続の簡便性などより、前者の契約方式が主流のようです。

また、譲渡制限期間中の処分を防止するために専用口座で管理する場合もあります。

 

ウ. 譲渡制限の解除又は会社による株式の無償取得

通常、譲渡制限期間にわたり役員等としての地位にあり、その職責を全うすることによって譲渡制限が解除されます。

譲渡制限期間内に退職等の事由が生じた場合には、譲渡制限の解除される株式数について一定の調整が行われます。

一方、 譲渡制限が解除されなかった株式は会社が無償で取得することとなります。

 

エ.譲渡制限期間における株主としての権利

当該制度において株式を引き受けた役員等は、 譲渡制限期間中から株主として議決権や配当受領権等の株主権を行使できることとなります。

 

2.税務上の取扱いの概要

譲渡制限付株式については、2016年(平成28年)度及び2017年(平成29年)度税制改正により税務上の取扱いが整理されています。

法人税法等においては、以下の①、②の各要件を満たす株式(これを「譲渡制限付株式」という。)であって、以下の③及び④の各要件を満たす場合に「特定譲渡制限付株式」として税制上の措置を講じています。

 

① 一定期間の譲渡制限が設けられている株式であること

② 法人により無償取得(没収)される事由(無償取得事由)として、一定期間の勤務又は業績等の条件が達成されないこと等が定められている株式であること

③  役務提供の対価として、役員等に生じる債権の給付と引換えに交付される株式等であること

④ 役務提供を受ける法人又はその関係法人の株式であること

 

役員給与については、法人税法上、定額同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与のいずれかに該当する場合、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、原則として損金の額に算入することとされています。

本スキームにより交付される株式が上記の特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合、役員に支給する特定譲渡制限付株式による給与については、事前確定届出給与の要件を満たすときにはその支給額は損金の額に算入されます。

 

事前確定届出給与の要件を満たすためには、 その役員の職務執行期間に係る報酬債権の額(支給額)が確定し、所定の時期までにその報酬債権の現物出資と引換えに譲渡制限付株式が交付されることが必要となります。

このため、 職務執行開始当初にその報酬債権の額が確定せず、後日に一定期間の勤務や業績等の条件に応じて報酬債権の額が決まる場合には、事前確定届出給与に該当しないことになります。

当該給与は、 譲渡制限付株式の交付対象である役員等に給与等の課税事由が生じた日、すなわち、特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度の損金の額に算入することとされています。

なお、 譲渡制限の解除条件を満たすことができず、最終的に会社が無償取得することとなった部分については、損金の額に算入されません。

 

3.会計処理上の論点

事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)について、会計基準上明確な定めはありません。

現状、 会計処理を行うに当たっては、平成29年9月経産省報告書が参照されているケースが多いのではないかと考えられます。

リストリクテッド・ストックは、金銭報酬債権を会社に現物出資するという法的形式を採用することで、現行会社法の枠組みの中で活用することが想定されており、前述の平成29年9月経産省報告書のQ42においてはその前提で会計処理が考察されています。

すなわち、制度開始時に金銭報酬債権の現物出資により株式の第三者割当が行われたとする会計処理が行われます。

そして、その後の役務提供に従って、前払費用の取崩しによる費用計上が行われることになるとされています。

 

譲渡制限の解除条件を満たすことができなかった場合には、定められた条件に従い対象となる株式を会社が無償取得することとなります。

 

なお、役員等からの自己株式の受入れは無償取得であるため、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)に従い、自己株式数を増加させる処理のみが行われると考えられます。

 

次に、現行会社法の枠組みで会計処理を行う場合(平成29年9月経産省報告書に記載される会計処理を行う場合)に、想定される個々の論点について検討しています。

 

① 費用認識の考え方

リストリクテッド・ストックでは、制度設定当初に役員等に対して金銭報酬債権が付与され、これを現物出資して株式の割当てが行われます。

これにより付与される金銭報酬債権は将来の勤務に係る報酬であるため、前払費用等として資産計上されます。

 

ここで、当該前払費用等の費用認識における考え方については、

ア.対象となる役員の任期

イ.譲渡制限期間

ウ.付与された金銭報酬債権に対応する見込勤務期間

エ.譲渡制限解除条件の達成が見込まれる期間

オ.即時全額費用処理

など、複数の方法が考えられます。

 

② 譲渡制限解除条件が未達の場合の費用処理のタイミング

リストリクテッド・ストックでは、前述のように金銭報酬債権に対応する前払費用等が計上され、合理的な方法により費用計上されることとなりますが、譲渡制限解除条件が未達となった場合は、条件未達部分に対応する前払費用等を取り崩し、損失(費用)処理することなどが考えられます。

 

譲渡制限解除条件が未達となることが見込まれる場合に、どの時点で前払費用等の取崩しを行うかについて、

ア.株主総会(退任確定)時点

イ.退任が合理的に確実となった時点

等の考え方があります。

 

③ 処理科目の取扱い

勤務期間の経過による前払費用等の取崩しは、役員給与等として営業費用として処理することが考えられますが、条件未達による取崩し部分については、

ア. 営業費用として処理する

イ. 営業外費用として処理する

等の方法があると考えられます。

 

役員向け株式交付信託に関する会計処理の論点~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

1.役員向け株式交付信託のスキームの概要

①役員向け株式交付信託の定義

役員向け株式交付信託とは、役員への企業価値向上のインセンティブ付与を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬をいいます。

 

②法的手続の概要

役員向け株式交付信託は、株式の交付時期が役員在任時であるスキームと、役員退任時であるスキームがありますが、一般的に以下のような制度概要を有しています。

 

ア.株式交付規程の制定

企業は、株式交付規程を制定し、役位、在籍年数、業績達成度等に基づく役員へのポイント付与の基準を定めます。

 

イ.企業による金銭の信託

企業は、株式交付規程に基づく株式交付に必要と見込まれる株式総数の取得原資となる金銭を信託に拠出することで、一定の受益者要件を満たす役員を受益者とする信託を設定すします。

 

ウ. 信託による企業の株式取得

信託は、「イ.」で信託された金銭を原資として、企業の株式を株式市場を通じて又は企業の自己株式処分を引き受ける方法により取得します。

 

エ. 企業から役員へのポイントの付与

企業は、株式交付規程に基づき役員にポイントを付与します。

 

オ. 信託から役員に対する株式の交付

株式交付規程に基づく支給条件が成就し、受益者要件を満たした役員に対して、信託から役員へ企業の株式が交付されます。

 

なお、上述「イ.」の企業による金銭の拠出に際しては、役員向け株式交付信託の概要を示した上で、 信託への拠出金額について、役員の職務執行の対価として企業が付与する報酬等(会社法第361 条第1項)として株主総会決議を得ることが適切であるとされています。

 

2.税務上の取扱いの概要

①2016年(平成28年)度税制改正における取扱い

2016年(平成28年)度税制改正において、役員向け株式交付信託のうち、役員在任中に株式を交付するスキームは、損金算入が困難であると考えられていました。

なお、役員退任時に株式を交付するスキームは、法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金に算入されます。

 

②2017年(平成29年)度税制改正後の取扱い

ア.在任時交付型

2017年(平成29年)度税制改正において、交付する株式数が役員による役務提供期間以外の法人の業績を示す指標を基礎として算定される業績連動給与 (法人税法第34条第5項)に該当するものについては、法人税法第34条第1項第3号の要件を満たす場合に損金算入が認められることとなりました。

また、事前確定届出給与(法人税法第34条第1項第2号)として適格株式を交付する役員給与に該当するものについても、損金算入が認められます。

2017年(平成29年)4月1日以後に導入の決議が行われるものについては、一定の要件を満たす場合に損金算入が認められることとなります。

 

イ.退任時交付型

退職給与に相当するものは、2017年(平成29年)9月30日までに導入の決議をしたものは、2016年(平成28年)度税制改正に基づき損金算入が認められます。

2017年(平成29年)10月1日以後に導入の決議が行われるもののうち、交付する株式数が役員による役務提供期間以外の法人の業績を示す指標を基礎として算定される業績連動給与(法人税法第34条第5項)に該当するものは、法人税法第34条第1項第3号の要件を満たす場合に限り、損金算入が認められ、業績連動給与に該当しないものは、2016年(平成28年)度税制改正と同様の取扱いとなります。

 

3.会計処理上の論点

① 基本的な会計処理の考え方

役員向け株式交付信託は役員等へのインセンティブ報酬を目的とする点において、従業員への福利厚生を目的とする株式給付型の従業員向け株式交付信託と異なりますが、その他の点では、両者のスキーム概要は類似しています。

役員向け株式交付信託については、そのスキームの内容に応じて、実務対応報告第30号の定めを参考にすることが考えられます(実務対応報告第30号第26項)。

なお、実務対応報告第30号の延長線上としてではなく、ストック・オプション会計や、他の事後交付型スキームのあるべき会計処理との整合性という観点では、費用計上額の相手勘定は引当金ではなく純資産ということになりますが、この点は、会計基準のみならず、会社法上の取扱いについても改正が必要となってくるものと考えられるとしています。

 

② 業績等条件が付されているケースでの割当て等に関する会計処理

役員向け株式交付信託は、業績連動型報酬として、一定の業績を達成しないとポイントを付与しない等、ストック・オプション会計基準にいうところの「業績条件」(業績等条件)が付されるケースがあります。

業績等条件は、信託期間に対応する企業の中期経営計画等の売上高、利益等の達成率や、信託期間に対応する一定期間経過後の企業の株価等による業績指標の達成率に応じて、役員等に割り当てられるポイントを段階的に設定する場合等があります。

業績等条件を満たすか否かが未確定の間は、業績等条件が満たされる部分を各期末日 (四半期決算日を含む。)に見積もって引当金の計上を行うことになるものと考えられます。

 

③ 信託終了時に信託に残存する自己株式の取扱い

役員向け株式交付信託においては、信託終了時に信託に残存する自社の株式については、全て企業が無償で取得し、取締役会決議により消却することを予定していることが多いようです。

これは、 業績未達成であるにもかかわらず、対象となる取締役に業績未達成部分の株式を交付することは業績連動報酬の趣旨に反するための措置であり、信託終了時に信託において株式の売却等により生じた余剰金を企業に帰属させることを目的としたものではないと考えられます。

この場合、企業は無償で取得した自己株式を株式数のみ増加させ、その消却時に株式数を減少させることになります。

 

信託では、企業に株式を無償譲渡することによる株式譲渡損が生じますが、総額法の適用により、当該譲渡損をどのように取り扱うかが論点となります。

実務対応報告第30号において、必ずしも会社と信託を一体と捉えている訳ではないことと整合的に考えれば、企業は決算時に当該株式譲渡損を取り込み、企業の損益計算書上、費用計上されるのではないかと考えられます。

なお、これらの会計処理は、一般的な事後交付型の自社株型報酬における会計処理と相違が生じている可能性があります。

この点、確かに信託を用いている特殊性(信託が市場から自社の株式を取得し、法的に自己株式ではないものを役員に交付する仕組みとなっている点を含む。)に起因するものではあるものの、事後交付型自社株型報酬制度全体の整合性を図る観点からは、会計処理における検討とともに、会社法上も信託を会社と一体とみて自己株式(自社の株式)に係る規定が適用できるような改正が可能かどうかに係る検討が行われる必要があるものと考えられるとしています。

 

また、役員向け株式交付信託において、その終了時に、信託に残存する自社の株式について、企業が無償取得するのではなく、当該株式を換金して、第三者へと寄付するようなスキームとなっているケースもあります。このような場合、従業員向けのスキームにおける従業員への分配と類似してはいるものの、労働等サービスの提供に対応して金銭が交付されるものではありません。

このため、信託で計上した株式売却損益を総額法においても損益で認識するとともに、売却価額と同額の費用(寄付金)を計上することになると考えられるとしています。

 

4.信託等の事業体を用いるスキームの場合の連結上の取扱い

実務対応報告第30号第4項の取引を実施する企業は、信託について子会社等に該当するか否かの判定を要せず、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上、そのまま引き継ぐものとされていることから、役員向け株式交付信託について実務対応報告第30号に基づく会計処理を行う場合、 同様の取扱いになると考えられます。

株式報酬型ストック・オプションの論点~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

株式報酬型ストック・オプションの論点

1.スキームの概要

株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)とは、権利行使価格を1円に設定した株式報酬型のストック・オプションのことです。

株式本体部分について報酬として享受することができます。

株式報酬型ストック・オプションは、古くから株式を使ったインセンティブ報酬とし て、役員退職慰労金の後継制度などで多く利用されています。

権利行使時に所得税が課税されるため、インサイダー等で株式の売却を制限され、給与課税の税率も高い在任時行使の設計は余りされず、株式の売却制限がなく、税率の低い退職所得課税として取り扱われる退任時行使の設計が多くなっています。

また、権利確定条件として業績条件が付与されるケー スもあり、この場合、一定の業績を達成しないと新株予約権の一部又は全部を行使することができません。

権利行使価格を現状の株価水準を基礎として設定したいわゆる通常型ストック・オプ ションは、その値上がり益のみ享受することになりますが、株式報酬型ストック・オプションは株式本体部分も報酬となるため、インセンティブ効果は高くなります。

一方で、発行時の払込みが1円であるため、希薄化のデメリットは強くなります。

なお、毎期一定額相当を付与する制度設計を前提にすると、株価が下落するほど、付与数が増えるという逆インセンティブ効果がある点も特徴として挙げられます。

 

2.税務上の取扱いの概要

株式報酬型ストック・オプションは、個人の所得税課税がされる権利行使時と同じタ イミングで法人税法上は損金算入されていましたが、2017 年(平成 29 年)度税制改正により、退職給与に該当するケースを除き、事前確定届出給与又は一定の業績連動給与に該当しなければ損金算入は認められないこととなりました。

 

3.会計処理上の論点

ストック・オプション会計基準に従い、発行時の公正な評価額を付与日から権利確定 日にわたって費用処理を行うことになります。

なお、権利確定条件として業績連動条件が付されている場合、いわゆる業績連動型のストック・オプションとなり、株価上昇のみならず、業績向上へのインセンティブも付した形のストック・オプションとなります。

このようなストック・オプションについては、業績条件が達成されないことによる失効数を見積もって、費用処理を行います。

 

4.課題

ストック・オプションについては、他のインセンティブ報酬の会計処理と異なり、ストック・オプション会計基準という明確な定めが設けられています。

しかしながら、次々と新たな報酬スキームが生み出されていく中では、インセンティブ報酬の会計処理全体に関して、整合的に会計処理が定められるべきであり、その中で現行のストック・オプション会計基準についても、必要な見直しが行われるべきではないかと提言しています。

特に、未公開企業の取扱いや、現行基準上では明確ではない一部の権利確定条件の取扱いなど、具体的に検討すべき論点は少なくないのではないかと提言しています。

 

インセンティブ報酬の類型~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

インセンティブ報酬の類型

インセンティブ報酬とは、自社や親会社等の株価や業績に連動して、株式数又は報酬額が決定される報酬であり、役員等に対して株価上昇や業績向上へのインセンティブを付与する性格の報酬です。インセンティブ報酬と呼ばれる報酬には、以下のような類型があります。

 

なお、各制度の説明に含まれる「業績等条件」とは、ストック・オプション制度における業績条件(ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、株価を含む一定の業績の達成又は不達成に基づく条件をいう)と同様に、業績等の達成によって権利が確定するような各報酬制度における条件を指しています。

 

1.株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)

権利行使価格を1円に設定した株式報酬型のストック・オプション(制度)

 

2.業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)

業績条件を付し、株価上昇のみならず、業績向上へのインセンティブも付した形のストック・オプション(制度)

 

3.権利確定条件付き有償新株予約権

企業がその従業員等に対して権利確定条件(業績条件など)が付されている新株予約権(ストック・オプション)を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む報酬制度

 

4.時価発行新株予約権信託

創業者(オーナー)等が信託の委託者となり、前述の権利確定条件付き有償新株予約権と同様の新株予約権を信託に対して有償で発行し、規程に従って従業員等に付与されたポイントに基づき、当該新株予約権を従業員等に付与する形の報酬制度。

 

5.株式交付信託

自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員等に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬制度。

役員向けに導入されるものは、「役員向け株式交付信託」などと称されている。

 

6.事前交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)

譲渡制限を付した株式を事前に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬制度。

 

7.事後交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック・ユニット)

株式を、一定の勤務対象期間後に交付する形とした株式報酬制度。

通常は、譲渡制限のない株式を交付するものであるが、本研究報告では便宜的に「事後交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック・ユニット)」という名称としている。

 

8.初年度発行型(事前交付型)パフォーマンス・シェア

中長期的な一定の業績等条件の達成によって譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を、対象期間の開始時に交付する形態の株式報酬制度。

 

9.業績連動発行型(事後交付型)パフォーマンス・シェア(いわゆるパフォーマンス・ シェア・ユニット)

中長期的な一定の業績等条件を達成した段階で報酬としての株式(又は株式数に応じた金銭)が交付されるような株式報酬制度。

 

10.パフォーマンス・キャッシュ

一定の業績等条件を達成することで報酬額が決定する現金報酬制度。

 

11.ファントム・ストック

仮想的に株式を付与し、その配当受領権や株式の値上がり益を事後的に現金で受領する報酬制度

 

12.SAR(株式増価受益権。ストック・アプリシエーション・ライト)

仮想行使価格と報酬算定時の株価との差額を現金で受領できる報酬制度。

 

これらのうち、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する企業会計基準等において会計処理が明らかにされているもの、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)、業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)、(従業員向けの)株式交付信託及び権利確定条件付き有償新株予約権です。

その具体的な会計処理は、別稿で解説しています。

 

業績連動型報酬の会計処理~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

「業績連動型報酬」の会計処理

業績連動型報酬とは、一般に売上や利益、各種経営指標や株価などと連動して支給額が 決定される報酬です。業績連動の対象期間は、単年度の場合もありますが、複数事業年度にわたるケースもあります。

 

固定報酬と比較すると、一定期間終了後にならないと支給額が確定しないという特徴があります。

 

業績連動型報酬は会計基準において直接定義付けはされていませんが、ストック・オプション会計基準において、「業績条件」に関し「ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、一定の業績(株価を含む。)の達成又は不達成に基づく条件をいう。」と定義されています。

 

一般的な業績連動型報酬の考え

業績連動型報酬は報酬の一類型であるため、通常の報酬と同様に、職務執行の対価として費用計上を行うべきです。

報酬の対象者が業績連動期間中に業績目標達成に向け勤労意欲を高めることに鑑みますと、各期間の業績と報酬は対応関係にあると考えられ、基本的には期間に応じた費用計上を行うことが理論的と考えられます。

 

企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」において、業績連動型報酬は職務執行の対価として費用処理することが適当とされています。

 

業績条件の達成見込みの変化により支給見込額が変動する場合には、基本的に会計上の見積りの変更として、変更があった期以降の財務諸表においてその影響を反映させることになると考えられます。

 

期末日をまたぐような一定期間の成果に基づいて支給額が確定されるような場合には、期末日までの実績を踏まえた成果の達成可能性を合理的に見積もったうえで、支給対象期間に対応して当期の負担に属する金額を引当金として計上することになると考えられます。

 

ストック・オプションにおける業績連動型報酬の取扱い

ストック・オプション会計基準においては、新株予約権の付与時に「公正な評価単価×付与数」という算式により公正な評価額を算定し、費用計上額のベースとしています。

 

公正な評価単価は原則として事後的に見直しが行われることはなく、業績の達成又は不達成による付与数の変動は、その失効数を見積もることにより調整されます。

 

失効数による調整がされることの根拠等について、ストック・オプション会計基準の結論の背景等では特に明示されていませんが、IFRS 第2号においても、ストック・オプション会計基準と同様に、業績条件を満たさない可能性を付与数で調整をする定めとなっています。

業績条件の調整の手法としては、評価単価に業績未達の可能性を織り込むという方法も考えられますが、評価単価に織り込む手法を採用しなかったのは、株式市場条件以外の業績条件を付与日の公正な評価単価に織り込む困難さが理由とされています(IFRS 第2号 BC216 項及 び IG9項)。

 

なお、業績条件の達成可能性が変動したときに事後的に時価を再評価した場合には、「付与日」測定という原則的な定めから、事後的な(業績条件以外の)時価の変動も反映されてしまうことになるため、適切ではないと考えられます。

業績条件の達成見込みに変化があった場合は、失効数の変動を通じて、一般的な場合と同様に会計上の見積りの変更として取り扱われます。

 

自社株型報酬における業績連動型報酬の取扱い

自社株型報酬においても、契約の時点において自社の株式の交付とサービスの提供が等価で交換されていると考えられるため、自社株型報酬を前提にすると、契約の時点において株式の公正な評価額を測定し、以後の再測定は行わないとすることが適切と考えられます。

 

仮に契約時以降の時点で測定を行うと、契約時以降の株式の公正な評価額の変動が会計処理に反映されてしまうことから、適切ではないと考えられるためです。

また、費用の認識については、契約の時点で算定された株式の公正な評価額を、対象となる勤務期間にわたって各期に認識することになると考えられます。

 

このとき、費用認識時に業績達成条件をどのように反映させるかが論点となりますが、ストック・オプションと同様に、業績達成条件を公正価値に織り込むのは困難と考えられるため、交付数で調整するのが適切と考えられます。

すなわち、業績未達による失効数を織り込んだ交付数で算定を行うことになります。

 

これは、IFRS 第2号の持分決済型の株式に基づく報酬取引と基本的には同様の考え方となっています。 なお、業績等条件の達成見込みに変化があった場合も、ストック・オプションと同様に、失効数の変動を通じて、会計上の見積りの変更と取り扱うことが適切です。

 

損金の額に算入することができる業績連動給与について~インセンティブ報酬

コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会について、以下のように述べています。

 

【基本原則4】

上場会社の取締役会は、 株主に対する受託者責任 ・説明責任を踏まえ、 会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、 収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと

(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと

(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取

締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。~以下略

 

【原則4-2 取締役会の役割 ・ 責務(2)】

取締役会は、 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、 経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、 説明責任の確保に向けて、 そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、 承認した提案が実行される際には、 経営陣幹部の迅速 ・ 果断な意思決定を支援すべきである。

また、経営陣の報酬については、 中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。

 

補充原則

4-2① 取締役会は、 経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。 その際、 中長期的な業績と連動する報酬の割合や、 現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

 

このように、経営陣の健全なリスクテイクを支える環境として、インセンティブ報酬を機能させることを求めています。これを受けて、税制もインセンティブ報酬(業績連動給与)について、所要の改正を行っています。

税制の中身を見てみましょう。

 

損金の額に算入することができる業績連動給与

法人が業務執行役員に対して支給する業績連動給与で、次に掲げる要件を満たすものをいいます。

同族会社にあっては、非同族会社の100%子会社に限ります。

業績連動給与を損金の額に算入するためには、その法人の業務執行役員の全てに対して支給するもので、かつ、個々の業務執行役員に支給する業績連動給与がそれぞれ法令の要件を満たすものである必要があります。

 

業績連動給与の定義

業績連動給与とは、次の給与をいいます。

1.利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他のその法人又はその法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される額又は数の金銭又は株式若しくは新株予約権による給与

2.法人税法第54条第1項に規定する特定譲渡制限付株式等による給与で無償で取得される株式の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの

3.法人税法第54条の2第1項に規定する特定新株予約権等による給与で無償で取得され、又は消滅する新株予約権の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの

 

金銭以外の資産が交付されるものにあっては、適格株式又は適格新株予約権が交付されるものに限ります。

 

損金算入の要件

損金算入の要件は、以下のようになっています。

A. 交付される金銭の額又は株式若しくは新株予約権の数(新株予約権にあっては無償で取得され、又は消滅する数を含みます。)の算定方法が、次のものを基礎とした客観的なものであること。

1. 職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の利益の状況を示す指標

2. 職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間又は職務執行期間開始日以後の所定の日における株式の市場価格の状況を示す指標

3. 職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の売上高の状況を示す指標

 

B. 上記Aの算定方法が、次の要件を満たすものであること。

 

1.確定した額又は確定した数を限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する業績連動給与に係る算定方法と同様のものであること。

2.所定の日までに報酬委員会(当該法人の業務執行役員又は当該業務執行役員と特殊の関係のある者が委員となっているものを除きます。)の決定その他適正な手続を経ていること。

3.その内容が、上記2の手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書に記載されていることなどの方法により開示されていること。

 

開示については、業務執行役員の全てについてそれぞれ行うことになります。

具体的には、その法人の業務執行役員ごとに、

1.業績連動給与の算定の基礎となる業績連動指標

2.限度としている確定した額又は確定した数

3.客観的な算定方法の内容

を開示する必要があります。

 

ただし、個々の業務執行役員に支給する業績連動給与の算定方法の内容が結果的に明らかになるものであればよく、算定方法が同様の業績連動給与について算定方法の内容を包括的に開示することを妨げるものでありません。

また、開示の対象はあくまで業績連動給与の算定方法の内容であり、役員の個人名の開示を求めるものではなく、その肩書き別に業績連動給与の算定方法の内容が明らかにされていれば足りることになります。

 

C. 次の要件を満たすものであること。

 

1.金銭による給与

上記A1.から3.に掲げる指標(以下「業績連動指標」といいます。)の数値が確定した日の翌日から1月を経過する日までに交付され、又は交付される見込みであること。

2.株式又は新株予約権(下記3.の新株予約権を除きます。)による給与

業績連動指標の数値が確定した日の翌日から2月を経過する日までに交付され、又は交付される見込みであること。

3.法人税法第54条の2第1項に規定する特定新株予約権等による給与で、無償で取得され、又は消滅する新株予約権の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの

 

上記B.2.の手続の終了の日の翌日から1月を経過する日までに交付されること

 

D.損金経理をしていること

 

損金経理により引当金勘定に繰り入れた金額を取り崩す方法により経理していることを含みます。

 

ストック・オプション等のインセンティブ報酬に関する会計基準

インセンティブ報酬に関して該当する会計基準があるものインセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

 

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

インセンティブ報酬に関する現行の会計基準について解説します。

 

ストック・オプション等に係る会計処理

 

ストック・オプション等の会計処理に係る定めに関しては、2005 年(平成 17 年)12 月 27 日(終修正 2013 年(平成 25 年)9月 13 日)に、ASBJ よりストック・オプション会計基準及び企業会計基準適用指針第 11 号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下「ストック・オプション適用指針」という。)が公表されています。ストック・オプションとは、自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等(企業の使用人の他、企業の役員が含まれるものとされます。なお、以下「役員等」といいます。)に労働等の対価としての報酬として付与するものをいいます。

 

ストック・オプション会計基準は、上述のストック・オプションの他、以下の取引を対象として適用されます。

 

1.企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社株式オプションを付与する取引であって、ストック・オプション以外のもの

2.企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社の株式を交付する取引

 

ストック・オプション会計基準の主眼であるストック・オプションは、オプション本来の権利を行使することが可能となる「権利の確定」について条件が付されていることが多く、 当該条件(「権利確定条件」)には、「勤務条件」や「業績条件」があります。

 

ストック・オプションに係る会計処理の概要は以下のとおりです。

1.権利確定日以前の会計処理

ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が役員等から取得する労働や業務 執行等のサービス(以下「労働等サービス」 といいます。)は、その取得に応じて「株式報酬費用」として計上されます。

また、対応する金額については、ストック・オプションの権利が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上します。

 

2.費用計上額の算定

ストック・オプションの公正な評価単価にストック・オプション数(失効すると見積もられる数を除く。)を乗じて「ストック・オプションの公正な評価額」を算出し、当該公正な評価額(すなわち、 費用計上総額)を、対象勤務期間を基礎とする方法など、合理的な方法で各期において認識します。

費用計上額の基礎となる公正な評価単価は、ストック・オプションの付与時点で確定し、原則として、事後的な見直しは行われません。

 

3.権利確定日後の会計処理

ストック・オプションが権利行使された場合、対応する部分を払込資本へと振り替えます。

一方、権利不行使により失効した新株予約権は、「新株予約権戻入益」等の科目で利 益に計上されます。

 

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(株式交付信託)に係る会計処理

 

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(株式交付信託)に関しては、2013 年(平成 25 年)12 月 25 日(終改正 2015 年(平成 27 年)3月 26 日)に、ASBJ より実務対応報告第 30 号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の 取扱い」(以下「実務対応報告第 30 号」という。)が公表されています。 実務対応報告第 30 号は、従業員等(従業員又は従業員持株会。なお、「従業員等」の定義がストック・オプション会計基準と異なっているため、留意する必要があります。)に対する以下の取引に適用することとされています。

 

1.従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に対し、信託を通じて自社の株式を交付する取引(いわゆる 株式給付型。)

 

2.従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付 する取引(いわゆる従業員持株会型。)

 

このうち、報酬としての株式交付信託は、前者の株式給付型であり、具体的におおむね以下の取引から構成されるとしています。

 

1.企業を委託者、信託銀行を受託者、一定の要件を満たす従業員を受益者として信託契約を締結し、企業は金銭の信託を行います。

 

2.受託者(信託銀行)は信託された金銭で自社(委託者)の株式を取得する。自社の株式の取得は、企業からの金庫株の譲渡や市場からの購入等といった方法で行われます。

 

3.企業は、あらかじめ制定した株式給付規程に基づき、対象となる従業員にポイントを付与します。ポイントから換算される株式数は、信託が購入した株式数に限定されます。

 

4.付与されたポイントは、一定の要件を満たすことで受給権として確定します。受託者(信託銀行)は、信託契約に基づいて、従業員に対して自社の株式を交付します。

 

5.信託終了時に資金に余剰が生じた場合、当該余剰金は従業員に分配され、企業には帰属しません。

 

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(株式交付信託)のうち、株式給付型と呼ばれるスキームに係る会計処理は、以下のようになります。

1.総額法の適用

一定の要件を満たす場合、信託の決算は総額法と呼ばれる方法によって企業の決算 に取り込まれます。

 

2.自己株式処分差額の認識時点

企業の金庫株を信託に対して譲渡する場合、自己株式処分差額は、信託から従業員への交付時ではなく、自社から信託への処分時に認識されます。

 

3.従業員へのポイントの割当て等に関する会計処理

従業員にポイントが割り当てられたときには、ポイントに対応する株式数に、信託が自社の株式を取得したときの株価を乗じた金額を基礎として、費用及び対応する引当金を計上します。 また、事後的に株価が変動したとしても、引当金の見直しは行われません。

 

この実務対応報告第 30 号の適用範囲には、ストック・オプション会計基準と異なり、役員向けの株式給付型株式交付信託は含まれません。

ただし、役員向けの制度であったとしても、そのスキームの内容に応じて、実務対応報告第 30 号の定めを参考にすることが考えられるとされています。

 

権利確定条件付き有償新株予約権に係る会計処理

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関しては、2018 年 (平成 30 年)1月 12 日に、ASBJ より実務対応報告第 36 号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下「実務対応報告第 36 号」という。)が公表されています。

実務対応報告第 36 号の公表によって、おおむね以下のような内容で発行される有償新株予約権につき、ストック・オプション会計基準が適用となることが明確化されました。

1.企業は、役員等を引受先として、新株予約権(市場価格がないもの)の募集要項を決議します。

2.募集新株予約権には、勤務条件及び業績条件が付されるか、又は業績条件のみが付 されています。

3.募集新株予約権を引き受ける役員等は、申込期日までに申し込みます。

4.企業は、申込者の中から募集新株予約権を割り当てる者及び数を決定します。割当てにより新株予約権者となった役員等は、払込期日までに一定の額の金銭を企業に払い込みます。

5.権利確定条件が充足された場合には、新株予約権は行使可能となり、一方、充足されなかった場合には、当該新株予約権は失効します。

6.権利確定した新株予約権の行使により、役員等は行使価格に基づく額を企業に払い 込み、この払込みを受けた企業は新株を発行するか、自己株式を処分します。

7.新株予約権が行使されずに権利行使期間が満了した場合、当該新株予約権は失効します。

 

当該有償新株予約権については、原則として、ストック・オプション会計基準の適用を受けることとなるため、業績条件を考慮しないストック・オプションの公正な評価単価に、業績条件の達成可能性を反映したストック・オプション数を乗じて、ストック・オプショ ンの付与時点のストック・オプションの公正な評価額が算定されます。

事後的に業績条件の達成可能性が高まった場合、見積ストック・オプション数が増加するため、総費用計上額は増加することになります。

この実務対応報告第 36 号の適用範囲には、従業員(使用人)のみならず、役員が含まれます。