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税務に関するコーポレートガバナンスの充実について~税務リスクの軽減と税務調査の負担軽減

「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組について」が 国税庁調査課から平成28年7月に公表されました。

 

取組の趣旨

 

大企業の税務コンプライアンスの維持・向上には、トップマネジメントの積極的な関与・指導の下、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要、かつ、効果的であることから、その充実を促進するものです。

 

税務に関するコーポレートガバナンス:税務についてトップマネジメントが自ら適正申告の確保に積極的に関与し、必要な内部統制を整備すること

税務コンプライアンス:納税者が納税義務を自発的かつ適正に履行すること

トップマネジメント:法人の代表取締役、代表執行役のほか、法人の業務に関する意思決定を行う経営責任者等

 

取組の概要

① 税務コーポレートガバナンスの確認

② 税務コーポレートガバナンスの判定

③ トップマネジメントとの面談

④ 判定結果の活用、調査の機会を利用した働きかけ

 

上記、各事項を説明会等により会社に働きかけを行います。

 

① 税務に関するコーポレートガバナンスの確認

対象法人: 国税局特別国税調査官所掌法人

確認方法: 調査の機会を利用して、対象法人に「税務に関するコーポレートガバナンス確認表」の記載を依頼し、確認する。

 

② 税務に関するコーポレートガバナンスの判定

  • トップマネジメントの関与・指導
  • 経理・監査部門の体制・機能の整備・運用
  • 内部牽制の働く税務・会計処理手続の整備・運用
  • 税務に関する情報及び再発防止策の社内への周知
  • 不適切な行為の抑制策の整備・運用
  • 確認項目の評価・判定 ※ 税務調査への適切な対応・帳簿書類等の保存状況を勘案

 

③ トップマネジメントとの面談

面談の相手方: 調査法人のトップマネジメント

面談担当者:調査(査察)部長又は次長が担当、担当特官が同席

実施方法: トップマネジメントがリーダーシップを発揮して税務に関するコーポレートガバナンスの充実に取り組んでいくことを促すため、調査結果の概要を説明し、その是正事項の再発防止に向けた取組を含め、税務に関するコーポレートガバナンスについて、改善が必要な箇所に関して、効果的な取組事例を紹介しつつ、トップマネジメントとの意見交換を実施する

 

④ 税務に関するコーポレートガバナンスの判定結果の活用

調査必要度の判断材料への活用

税務に関するコーポレートガバナンスの判定結果は、特別国税調査官所掌法人の調査必要度の重要な判断材料の一つとして活用

 

税務コーポレートガバナンスの状況が良好な法人への対応

税務に関するコーポレートガバナンスの状況が良好であり、調査結果に大口・悪質な是正事項がなく調査必要度が低いと判断される法人については、調査省略時に一般に国税当局と見解の相違が生じやすい取引を自主的に開示し、当局がその適正処理を確認することを条件に、次回調査までの調査間隔を1年延長

 

○ 自主開示事項の確認

調査間隔を延長した結果、一回の調査の事務負担が法人及び国税当局双方にとって過重にならないために実施

 

調査省略対象とする事業年度の申告書審理を行う過程において、一般に国税当局と見解の相違が生じやすい取引等を自主開示し、当局がその適正処理を確認

 

自主開示事項は、申告済の事業年度における以下に掲げる取引等の処理で、取引金額が多額のもの

・ 組織再編における適格組織再編か否かの判定

・ 特別損失計上取引の処理

・ 仮受金又は仮払金計上取引の処理 など

 

取組の効果等

大きな組織を有する大企業の税務コンプライアンスの維持・向上のためには、税務に関するコーポレートガバナンスの充実が重要です。

 

税務に関するコーポレートガバナンスが不十分であれば、事業部や支店、工場などの組織の第一線で不適切な経理処理が生じるリスクが高まります。

 

税務に関するコーポレートガバナンスの充実による税務コンプライアンスの向上は、企業・国税当局の双方にメリットがあります。

 

企業のメリット:税務リスクの軽減、税務調査対応の負担軽減

 

国税当局のメリット:調査必要度の高い法人への税務調査の重点化

 

企業がリストラクチャリングをした時に必要な会計の知識~事業構造改革引当金等の計上について

 

企業のリストラクチャリングに関連して、引当金の計上を検討する必要がある場合があります。

たとえば、事業構造改革引当金、店舗閉鎖損失引当金、事務所移転費用引当金などです。

 

1.概 要

リストラクチャリングの手段として、事業の整理(譲渡、統合、撤退等)や子会社等の整理(売却、清算等)、人員整理等が行われることがあります。

 

そのような事業構造の改善に関連して発生する費用又は損失のうち、引当金の要件を満たすものについては、リストラクチャリングに関連する引当金を計上する必要があります。

 

このような引当金は、総称して事業構造改革引当金という名称を用いて計上するケースが多く見受けられます。

 

また、リストラクチャリングの一環として、本社・事業所・工場・店舗等の移転又は閉鎖等を行うことがあります。この場合に発生する建物等の賃貸借契約の解約違約金等についても、引当金の要件を満たす場合には、引当金を計上する必要があります。

 

このような引当金は、具体的な内容を明らかにするため、店舗閉鎖損失引当金や事務所移転費用引当金等の名称を用いて計上するケースが多く見受けられます。

 

2.会計基準等

リストラクチャリングに伴い発生する費用又は損失には、固定資産の減損損失、子会社株式の評価損、人員整理に伴い発生する割増退職金等が含まれることがあります。

 

このような費用又は損失については、固定資産の減損損失については減損会計基準、子会社株式の減損については金融商品会計基準、割増退職金については退職給付会計基準といった関連する会計基準が適用されます。

 

上記以外の費用又は損失は、各々の会計基準では直接規定されていないものです。このうち金額を合理的に見積ることができるものについて、引当金の要件を満たすか否か検討する必要があります。

 

3.引当金の計上

企業会計原則注解18における引当金の計上要件に事業構造改革引当金等を当てはめると以下のようになります。

 

注解18の要件

事業構造改革引当金

将来の特定の費用又は損失である 将来において事業・子会社等の整理等が実行されることにより費用または損失が生じるものか
その発生が当期以前の事象に起因する 当期以前に生じた経営状況の悪化を改善するために行われるものか
発生の可能性が高い リストラクチャリング計画が取締役会等の意思決定機関で決議されたか
金額を合理的に見積ることが可能 リストラクチャリング計画の中で具体的な金額が明示されているか

 

引当金の計上要件を満たす時期としては、取締役会等の決議など会社としての意思決定がなされた時点となることが多いと考えられますが、実務上は個々の費用(損失)の性質を考慮して判断することになります。

 

4.引当金額の測定

金額の測定に当たっては、リストラクチャリングの対象となる拠点及び発生が見込まれる費用または損失が網羅的に把握されているかどうかを慎重に検討する必要があります。

 

ここでは代表的なリストラクチャリングに関連する費用または損失である事務所移転費用等や割増退職金の見積り方法について紹介します。

 

  • 解約違約金等

賃貸借契約を中途解約した場合に発生する解約違約金や解約不能期間の賃借料等は、個別の契約書に基づいて金額を見積ることになると考えられます。

 

  • 割増退職金

事業又は子会社等の整理に伴い従業員の早期退職の募集が行われる場合、その割増退職金は、従業員が早期退職制度に応募し、当該金額を合理的に見積ることができる時点で費用処理するとされています。

割増退職金の金額は、設定された希望退職制度の規程に従って要支出額を見積ることになると考えられます。

 

期末日現在では、希望退職制度の募集期間中である場合など、対象者が特定できない場合もあり、その見積りが困難なことも考えられます。その場合であっても期末日時点で入手可能な情報を関連部署等から網羅的に入手すること等により、金額を合理的に見積ることが可能か検討することが必要です。

なお、早期退職の募集期間が終了し退職者が確定した場合には、割増退職金は債務として確定していますので、引当金の取崩しが行われ、未払退職金等に振り替えられることになります。

 

5.他の会計基準との関係

①固定資産の耐用年数等の見積変更

リストラクチャリング計画に、固定資産の除売却が含まれている場合があります。

 

当該リストラクチャリング計画が取締役会によって承認決議がされた場合には、固定資産の減損の兆候に該当することになりますが、承認決議後も当該固定資産を一定期間継続して使用する場合には、耐用年数や残存価額の見積の変更を検討する必要もあります。

 

減損損失の認識・測定に至らなくても、耐用年数等の短縮等を実施しなくてはならないケースも出てくると考えられます。

 

②後発事象

決算日前にリストラクチャリング計画が決定されたが、実際のリストラクチャリング計画の実行が決算日後になった場合、後発事象に該当するか否かの検討が必要となります。

例えば、従業員に対する早期退職制度を募集する場合では、労働組合との関係等から計画通りに進まないこともあり、また、決算日をまたいで早期退職制度の募集が行われることも想定されます。

 

この決算日前に始まった募集期間が会計監査人の監査報告書日前までに終了する場合、財務諸表を修正する必要があるような修正後発事象に該当するか慎重に検討する必要があります。

限定付適正意見、意見不表明又は不適正意見を出した時の監査人の対応~会計監査に関する情報提供の充実について

 

「会計監査に関する情報提供の充実について ― 通常とは異なる監査意見等に係る対応を中心として ― 」が、平成 31 年1月 22 日 に、「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」から公表されました。

 

「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言

平成 28 年 3 月、「会計監査の在り方に関する懇談会」において、 会計監査の信頼性確保に向けた提言が以下のようにとりまとめられています。

 

会計監査の透明性の向上を通じて、企業の株主によって監査人の評価が適正に行われるようになり、高品質と認められる会計監査を提供する監査法人等が評価され、企業がそのような評価に基づいて監査を依頼するようになることが期待される。これにより、より高品質な監査を提供するインセンティブの強化や、そのような監査に株主や企業が価値を見出すことによる監査法人等の監査報酬の向上等を通じて、市場全体における監査の品質の持続的な向上につながっていく好循環が確立されることが望まれる。

 

会計監査に関する情報提供充実の取組み

こうした考え方や会計監査をめぐる国際的な動向を踏まえ、これまで、会計監査に関する情報提供の充実を図る観点から、「監査法人の組織的な運営に関する原則(監査法人のガバナンス・コード)」の策定(平成 29 年 3 月)や、「監査報告書の透明化」(平成 30 年 7 月監査基準改訂)などの取組みが進められてきました。

 

財務諸表の作成と開示に関する第一義的な責任は企業にあり、監査人は、株主・投資家等の財務諸表利用者に対し、財務諸表の適正表示に関する意見を監査報告書を通じて表明します。

 

監査報告書には、監査意見のほか、経営者及び監査役等の責任や監査人の責任等を標準化された文言で簡潔に記載することとされています。

 

監査報告書に関しては、監査意見に至る監査のプロセスに関する情報が十分に提供されず、監査の内容が見えにくいとの指摘等を背景に、これまでの基本的な枠組みは維持しつつ、監査プロセスの透明性向上を図るための取組みが国際的に進展しています。

 

我が国においても、「監査報告書の透明化」の取組みとして、平成 30 年 7 月の監査基準改訂において、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の記載等を求めることとされました。これにより、監査意見やその根拠とは別に、監査人が当年度の監査の過程で着目した会計監査上のリスクに関する情報の記載が求められることとなりました。

 

会計監査に関する説明

監査人が、会計監査の最終的な受益者である株主・投資家等の財務諸表利用者に対し、自ら行った監査に係る説明を行うことは、監査人の職責に含まれるものであり、会計監査の品質向上・信頼性確保に向けた自律的な対応の一環として、監査人は、自らの説明責任を十分に果たしていくことが求められます。

 

近年、「監査報告書の透明化」に向けた制度面の整備も進み、監査人による個々の会計監査に関する説明・情報提供へのニーズが高まる中、それに応じて、より一層の会計監査に関する説明・情報提供の充実が求められています。

 

特に、限定付適正意見、意見不表明又は不適正意見(以下「通常とは異なる監査意見等」という)が表明された場合は、監査人の判断の背景や根拠となった事情が財務諸表利用者の意思決定に対してより重大な影響を与え得るため、監査人からの説明・情報提供が一層重要となります。

 

また、監査人の交代理由など、財務諸表利用者の関心が高い事象についての適切な説明・情報提供も重要な課題と考えられます。

 

しかしながら、従前、こうした場合において、監査人の財務諸表利用者に対する説明責任が十分に果たされていなかったのではないか、との指摘がなされています。

 

具体的には、

・ 監査報告書の除外事項の記載において、具体的な影響額が示されず、また、示されないことについての合理的根拠が十分説明されていない

 

・ 意見不表明の場合に、その理由が十分説明されていない

 

・ 監査報告書の記載のみでは十分な情報が得られない場合があるが、株主総会の場を含め、監査人からの追加的な説明を受ける機会がない

 

・ 監査人の交代に関する開示書類において、実質的な交代理由が記載されていない

 

等の事例があるとの指摘があり、こうした場合は監査人からの充実した説明・情報提供への要請が特に高いと考えられます。

 

こうした説明・情報提供の充実の要請に適切に応えることにより、財務諸表利用者にとって個々の会計監査の有用性が高まるとともに、広く会計監査に対する理解が深まり、財務諸表利用者による監査の品質に対する評価がより適正に行われるようになることが期待されます。

 

これらが、会計監査の品質の向上、ひいては、会計監査の信頼性確保にもつながるものといえます。

 

通常と異なる監査意見等

懇談会においては、以上のような問題意識の下、特に、通常とは異なる監査意見等についての説明・情報提供の在り方に関し、会社法を含む関係法令や監査基準等を踏まえつつ、検討を行っています。

 

監査人が、会計監査の最終的な受益者である株主・投資家等の財務諸表利用者に対し、自ら行った監査に係る説明を行うことは、監査人の職責に含まれるものであり、会計監査の品質向上・信頼性確保に向けた自律的な対応の一環として、監査人は、自らの説明責任を十分に果たしていくことが求められます。

 

 

通常とは異なる監査意見等(限定付適正意見、不適正意見、意見不表明)についての説明・情報提供

1.監査報告書の記載

現 状:監査報告書において、監査意見に至った理由が不十分。

・限定付適正意見の場合になぜ不適正ではないと判断したかの説明が不十分

 

対 応:監査報告書において、意見の根拠を十分かつ適切に記載する。

・ 限定付適正意見: なぜ不適正意見ではないと判断したか

・ 意見不表明:なぜ意見表明できないという極めて例外的な状況に至ったのか

 

2.監査報告書以外での追加的な説明

現 状:監査報告書以外に、監査人からの追加的な説明を受ける機会がない。

・株主総会での会計監査人の意見陳述という会社法上の枠組みが活用されていない

 

対 応:監査人は、株主総会での意見陳述の機会を活用し、追加的な説明を行う。

  • 企業側も、株主総会の議事運営にあたり、監査人の意見陳述の機会を尊重する。
  • 四半期決算など株主総会の機会を活用できない場合であっても、適切な説明の手段を検討する。
  •  監査役等は、監査人による追加的な説明を促す。
  • 監査人が株主等に対して必要な説明・情報提供を行うことは、公認会計士法上の「正当な理由」に該当し、守秘義務違反とならないことを明確化する。

 

 

監査人の交代に関する説明・情報提供

監査人の交代理由の開示

現 状:監査人の交代に際し、実質的な交代理由が開示されていない。(単なる「任期満了」との記載が概ね半数以上)

対 応:企業及び監査人は、監査人の交代理由について、実質的な内容を記載する。

・監査報酬や会計処理に関する見解の相違等がある場合はその内容

SDGsは中小企業の経営にとっても重要事項です~持続可能な開発目標活用ガイドより~

「すべての企業が持続的に発展するために - 持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド - エスディージーズ」が環境省より平成 30 年 6 月に公表されました。

 

以下は、活用ガイドの「はじめに」からの要約です。

 

SDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)は、2015年に国連が採択した先進国を含む国際社会全体の2030年に向けた環境・経済・社会についてのゴールです。 同年 12 月に採択された地球温暖化対策としての「パリ協定」と両輪になって、今、世界を大きく変える道しるべとなっています。

このSDGsは、政府や⾃治体だけでなく、⺠間企業においても取り組む気運が国内外で高まっています。 環境課題や社会課題の解決を通して儲ける、環境課題や社会課題に配慮していないと儲けられない、そんな時代が来ようとしています。

本ガイドは⺠間企業がSDGsを取り入れる際に経営者から担当者までの幅広い関係者が使いやすいように整理した構成となっています。新しい時代の経営の形がそこにはあります。

 

 

 

活用ガイドの目的と特徴

本ガイドの目的や特徴として、以下の説明がされています。

 

  • 目 的

本ガイドは、持続可能な開発目標(SDGs)について、これまで特段の取組を行っていない企業が活用することにより、SDGs に係る取組の進展に寄与することを目的としています。また、既に何らかの取組を行っている企業も本ガイドを参照し、さらなる取組の充実・発展のために活用することが期待されています。

 

  • 対 象

本ガイドの対象は、SDGs に関心を持ち、何か取組を始めてみようと考えている、中小規模の企業・事業者を主な対象としています。

このため、地域経済を⽀さえ、地域の活力の中心となって活動しているこれらの方々の目線で眺め、使いやすい内容となることを意図して構成されています。

 

  • 特 徴

SDGsには17のゴールがありますが、本ガイドにおいては、環境保全と関係の深いゴールや取組を中心とした内容となっています。

例えば、4(教育)、6(水・衛生)、7(エネルギー)、11(都市)、12(持続可能な消費と生産)、13(気候変動)、14(海洋)、15(陸域生態系・生物多様性)、17(実施手段・パートナーシップ)です。

 

  • 構 成

本ガイドには、この冊子の他に資料編が付属しています。

本冊子では、企業を取り巻く社会の変化やSDGsを巡る国内外の動きなどを紹介するとともに、SDGsに取り組むための具体的な方法を示していて、SDGs への理解を深めるところから実践へとつなげるものとなっています。

資料編では、SDGsに取り組むにあたり、活用しやすいツールや参考情報、取組事例などをまとめたものとなっています。

 

活用ガイドの概要

 

なぜ、SDGsなのか

その理由として、以下のことが挙げられています。

・パリ協定やESG投資など世界の潮流が変わり始めていること

・日本でも、政府による自治体SDGsの推進、経団連の企業⾏動憲章の改定、持続可能な調達ニーズの高まりなど、機が熟しつつあること

・社会課題解決の新しいプレーヤーとして企業が注目されていること

 

大企業や自治体では、社会課題解決に向けた戦略的な取組が創発され、そして取引のあるすべての企業もその取り組みを行うことが期待されています。

 

SDGsが示した潜在的マーケット

SDGsは全世界が合意した2030年の未来像を⽰めすものであり、未来像と現在のギャップを埋めるためには、イノベーションが必要となります。

SDGsが掲げる169のターゲットは、今後、変化が起きる領域でもあり、ビジネスにおいても新たな需要があるとみることができるものです。

このように、SDGsによって、⾜らないものが⾒えるようになり、世界には巨大な潜在的マーケットがあることが⽰されました。

今、世界中の各国政府、NGO、NPO、研究機関、大学などとともに、企業もSDGsの達成に向けて動き始めており、それがビジネスのあり方にも大きな影響を与えています。

 

これからの企業に必要なこととは

企業はこれまで、消費者のため、地域社会のため、そして生活環境の維持のために求められる製品やサービスを提供してきました。

しかし、昨今の少子高齢化による人材不⾜や消費者ニーズの多様化等により、売上拡大や事業承継において課題を抱える企業が多くなってきています。

企業が将来にわたって継続し、より発展していくために必要となるものは、⻑期的な視点で社会のニーズを重視した経営と事業展開です。

そこで、今、ビジネスの世界では、経営リスクを回避するとともに、新たなビジネスチャンスを獲得して持続可能性を追求するためのツールとして、SDGsの活用が注目を集めています。

 

「企業経営の道しるべ」となるSDGs

SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことです。

社会が抱える問題を解決し、世界全体で2030年を目指して明るい未来を作るための17のゴールと169のターゲットで構成されています。

 

SDGsの根幹にある「持続可能な開発」とは、「将来世代のニーズを損なわずに、現代世代のニーズを満たす開発」のことをいいます。

SDGsにはあらゆる分野における社会の課題と⻑期的な視点でのニーズがつまっているということです。

2017年には、GPIF(年⾦積⽴⾦管理運用独⽴⾏政法人)がESG投資に1兆円規模の投入を決めました。これは、環境問題や社会問題を視点として経営に取り入れることにより、将来的なリスクを軽減できる、課題解決のために生まれる新規市場に参入できる、といった評価が市場においてなされているからです。

 

ビジネスでは、SDGsが「共通言語」に

SDGsは国連で採択されたものですが、すでにビジネスの世界での「共通言語」になりつつあります。

そして、これらのゴールを達成するために、個別の企業においても取組が広がってきています。特に、世界を相手に事業を展開する大企業では、バリューチェーン全体の⾒直しを始めており、関連するサプライヤーにも影響が広がると考えられています。

SDGsの普及とともに、市場のニーズ、そして取引先からのニーズとして、SDGsへの対応が求められるようになってきています。

実際、投資の条件として、収益だけではなく、SDGsに取り組んでいるかどうかもみられる時代になってきているのです。

 

SDGsと持続可能な企業

SDGsのゴール・ターゲットをみると、自社の取組とのつながりに気づきます。

そこから、自社の強みは何であるかを改めて⾒直したり、SDGsに⽰めされた課題を解決できる自社の潜在能⼒に気づくことができたりします。

持続可能な会社にするためには、今の社会のニーズだけでなく、将来のニーズも満たすような事業展開が必要です。

SDGsを掲げた企業経営によって、持続可能な企業へと発展していきましょう。

 

SDGsの活用による社会課題への対応、企業イメージの向上、新たな事業機会の創出

 SDGsには社会が抱えている様々な課題が網羅されていて、今の社会が必要としていることが詰まっています。

これらの課題への対応は、経営リスクの回避とともに社会への貢献や地域での信頼獲得にもつながります。

取組をきっかけに、地域との連携、新しい取引先や事業パートナーの獲得、新たな事業の創出など、今までになかったイノベーションやパートナーシップを生むことにつながります。

SDGsへの取組をアピールすることで、多くの人に「この会社は信用できる」、「この会社で働いてみたい」という印象を与え、より、多様性に富んだ人材確保にもつながるなど、企業にとってプラスの効果をもたらします。

取引先のニーズの変化や新興国の台頭など、企業の生存競争はますます激しくなっています。今後は、SDGsへの対応がビジネスにおける取引条件になる可能性もあり、持続可能な経営を行う戦略として活用できます

事前交付型譲渡制限付株式 (リストリクテッド・ストック)の会計処理上の論点~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

1.事前交付型譲渡制限付株式 (リストリクテッド・ストック)のスキームの概要

 

① 事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)の定義と導入効果

譲渡制限付株式とは、一定期間の譲渡制限を設け株式を保有させる株式報酬です。

このうち、譲渡制限付株式を事前に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬制度ないし当該制度に用いられる株式を事前交付型譲渡制限付株式 (いわゆる、リストリクテッド・ストック)といいます。

この制度は、譲渡制限期間における勤務継続を条件とすることにより、経営者層のリテンション効果又は中長期の業績向上・株価上昇に向けたインセンティブ効果を期待するものです。

 

② 我が国におけるリストリクテッド・ストック導入までの流れ

現行の会社法上、 無償で株式を発行すること及び役務提供を対価として資本の払込みを行うことは認められないと解されていることから、従来、報酬として直接株式を付与する手法は採用されていませんでした。

平成27年経産省報告書において提示された解釈を基に、「金銭報酬債権の現物出資」という法的構成を採用することで、報酬として株式を付与する手法が事実上可能となったと考えられています。

 

③ 法的手続の概要

ア. 金銭報酬債権の付与及びその現物出資と株式の発行

金銭報酬債権の現物出資による株式の発行では、株主総会において対象となる役員等への金銭報酬債権付与の決議を経て、これらの役員等が当該金銭報酬債権を現物出資財産として払い込み、会社の株式の割当てを受けます。

この株式発行の手続を制度設定の当初に行うのが、事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)です。

 

イ. 譲渡制限付株式割当契約の締結

役員等は本制度において受け取る株式について、譲渡制限付株式割当契約を締結します。

当該契約では一定期間の譲渡制限期間が設定され、譲渡制限期間中の株式譲渡、担保権の設定その他の処分が禁止されることとなります。

なお、譲渡制限契約の締結の代わりに種類株式として譲渡制限付株式を発行することも可能ですが、手続の簡便性などより、前者の契約方式が主流のようです。

また、譲渡制限期間中の処分を防止するために専用口座で管理する場合もあります。

 

ウ. 譲渡制限の解除又は会社による株式の無償取得

通常、譲渡制限期間にわたり役員等としての地位にあり、その職責を全うすることによって譲渡制限が解除されます。

譲渡制限期間内に退職等の事由が生じた場合には、譲渡制限の解除される株式数について一定の調整が行われます。

一方、 譲渡制限が解除されなかった株式は会社が無償で取得することとなります。

 

エ.譲渡制限期間における株主としての権利

当該制度において株式を引き受けた役員等は、 譲渡制限期間中から株主として議決権や配当受領権等の株主権を行使できることとなります。

 

2.税務上の取扱いの概要

譲渡制限付株式については、2016年(平成28年)度及び2017年(平成29年)度税制改正により税務上の取扱いが整理されています。

法人税法等においては、以下の①、②の各要件を満たす株式(これを「譲渡制限付株式」という。)であって、以下の③及び④の各要件を満たす場合に「特定譲渡制限付株式」として税制上の措置を講じています。

 

① 一定期間の譲渡制限が設けられている株式であること

② 法人により無償取得(没収)される事由(無償取得事由)として、一定期間の勤務又は業績等の条件が達成されないこと等が定められている株式であること

③  役務提供の対価として、役員等に生じる債権の給付と引換えに交付される株式等であること

④ 役務提供を受ける法人又はその関係法人の株式であること

 

役員給与については、法人税法上、定額同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与のいずれかに該当する場合、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、原則として損金の額に算入することとされています。

本スキームにより交付される株式が上記の特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合、役員に支給する特定譲渡制限付株式による給与については、事前確定届出給与の要件を満たすときにはその支給額は損金の額に算入されます。

 

事前確定届出給与の要件を満たすためには、 その役員の職務執行期間に係る報酬債権の額(支給額)が確定し、所定の時期までにその報酬債権の現物出資と引換えに譲渡制限付株式が交付されることが必要となります。

このため、 職務執行開始当初にその報酬債権の額が確定せず、後日に一定期間の勤務や業績等の条件に応じて報酬債権の額が決まる場合には、事前確定届出給与に該当しないことになります。

当該給与は、 譲渡制限付株式の交付対象である役員等に給与等の課税事由が生じた日、すなわち、特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度の損金の額に算入することとされています。

なお、 譲渡制限の解除条件を満たすことができず、最終的に会社が無償取得することとなった部分については、損金の額に算入されません。

 

3.会計処理上の論点

事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)について、会計基準上明確な定めはありません。

現状、 会計処理を行うに当たっては、平成29年9月経産省報告書が参照されているケースが多いのではないかと考えられます。

リストリクテッド・ストックは、金銭報酬債権を会社に現物出資するという法的形式を採用することで、現行会社法の枠組みの中で活用することが想定されており、前述の平成29年9月経産省報告書のQ42においてはその前提で会計処理が考察されています。

すなわち、制度開始時に金銭報酬債権の現物出資により株式の第三者割当が行われたとする会計処理が行われます。

そして、その後の役務提供に従って、前払費用の取崩しによる費用計上が行われることになるとされています。

 

譲渡制限の解除条件を満たすことができなかった場合には、定められた条件に従い対象となる株式を会社が無償取得することとなります。

 

なお、役員等からの自己株式の受入れは無償取得であるため、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)に従い、自己株式数を増加させる処理のみが行われると考えられます。

 

次に、現行会社法の枠組みで会計処理を行う場合(平成29年9月経産省報告書に記載される会計処理を行う場合)に、想定される個々の論点について検討しています。

 

① 費用認識の考え方

リストリクテッド・ストックでは、制度設定当初に役員等に対して金銭報酬債権が付与され、これを現物出資して株式の割当てが行われます。

これにより付与される金銭報酬債権は将来の勤務に係る報酬であるため、前払費用等として資産計上されます。

 

ここで、当該前払費用等の費用認識における考え方については、

ア.対象となる役員の任期

イ.譲渡制限期間

ウ.付与された金銭報酬債権に対応する見込勤務期間

エ.譲渡制限解除条件の達成が見込まれる期間

オ.即時全額費用処理

など、複数の方法が考えられます。

 

② 譲渡制限解除条件が未達の場合の費用処理のタイミング

リストリクテッド・ストックでは、前述のように金銭報酬債権に対応する前払費用等が計上され、合理的な方法により費用計上されることとなりますが、譲渡制限解除条件が未達となった場合は、条件未達部分に対応する前払費用等を取り崩し、損失(費用)処理することなどが考えられます。

 

譲渡制限解除条件が未達となることが見込まれる場合に、どの時点で前払費用等の取崩しを行うかについて、

ア.株主総会(退任確定)時点

イ.退任が合理的に確実となった時点

等の考え方があります。

 

③ 処理科目の取扱い

勤務期間の経過による前払費用等の取崩しは、役員給与等として営業費用として処理することが考えられますが、条件未達による取崩し部分については、

ア. 営業費用として処理する

イ. 営業外費用として処理する

等の方法があると考えられます。

 

役員向け株式交付信託に関する会計処理の論点~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

1.役員向け株式交付信託のスキームの概要

①役員向け株式交付信託の定義

役員向け株式交付信託とは、役員への企業価値向上のインセンティブ付与を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬をいいます。

 

②法的手続の概要

役員向け株式交付信託は、株式の交付時期が役員在任時であるスキームと、役員退任時であるスキームがありますが、一般的に以下のような制度概要を有しています。

 

ア.株式交付規程の制定

企業は、株式交付規程を制定し、役位、在籍年数、業績達成度等に基づく役員へのポイント付与の基準を定めます。

 

イ.企業による金銭の信託

企業は、株式交付規程に基づく株式交付に必要と見込まれる株式総数の取得原資となる金銭を信託に拠出することで、一定の受益者要件を満たす役員を受益者とする信託を設定すします。

 

ウ. 信託による企業の株式取得

信託は、「イ.」で信託された金銭を原資として、企業の株式を株式市場を通じて又は企業の自己株式処分を引き受ける方法により取得します。

 

エ. 企業から役員へのポイントの付与

企業は、株式交付規程に基づき役員にポイントを付与します。

 

オ. 信託から役員に対する株式の交付

株式交付規程に基づく支給条件が成就し、受益者要件を満たした役員に対して、信託から役員へ企業の株式が交付されます。

 

なお、上述「イ.」の企業による金銭の拠出に際しては、役員向け株式交付信託の概要を示した上で、 信託への拠出金額について、役員の職務執行の対価として企業が付与する報酬等(会社法第361 条第1項)として株主総会決議を得ることが適切であるとされています。

 

2.税務上の取扱いの概要

①2016年(平成28年)度税制改正における取扱い

2016年(平成28年)度税制改正において、役員向け株式交付信託のうち、役員在任中に株式を交付するスキームは、損金算入が困難であると考えられていました。

なお、役員退任時に株式を交付するスキームは、法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金に算入されます。

 

②2017年(平成29年)度税制改正後の取扱い

ア.在任時交付型

2017年(平成29年)度税制改正において、交付する株式数が役員による役務提供期間以外の法人の業績を示す指標を基礎として算定される業績連動給与 (法人税法第34条第5項)に該当するものについては、法人税法第34条第1項第3号の要件を満たす場合に損金算入が認められることとなりました。

また、事前確定届出給与(法人税法第34条第1項第2号)として適格株式を交付する役員給与に該当するものについても、損金算入が認められます。

2017年(平成29年)4月1日以後に導入の決議が行われるものについては、一定の要件を満たす場合に損金算入が認められることとなります。

 

イ.退任時交付型

退職給与に相当するものは、2017年(平成29年)9月30日までに導入の決議をしたものは、2016年(平成28年)度税制改正に基づき損金算入が認められます。

2017年(平成29年)10月1日以後に導入の決議が行われるもののうち、交付する株式数が役員による役務提供期間以外の法人の業績を示す指標を基礎として算定される業績連動給与(法人税法第34条第5項)に該当するものは、法人税法第34条第1項第3号の要件を満たす場合に限り、損金算入が認められ、業績連動給与に該当しないものは、2016年(平成28年)度税制改正と同様の取扱いとなります。

 

3.会計処理上の論点

① 基本的な会計処理の考え方

役員向け株式交付信託は役員等へのインセンティブ報酬を目的とする点において、従業員への福利厚生を目的とする株式給付型の従業員向け株式交付信託と異なりますが、その他の点では、両者のスキーム概要は類似しています。

役員向け株式交付信託については、そのスキームの内容に応じて、実務対応報告第30号の定めを参考にすることが考えられます(実務対応報告第30号第26項)。

なお、実務対応報告第30号の延長線上としてではなく、ストック・オプション会計や、他の事後交付型スキームのあるべき会計処理との整合性という観点では、費用計上額の相手勘定は引当金ではなく純資産ということになりますが、この点は、会計基準のみならず、会社法上の取扱いについても改正が必要となってくるものと考えられるとしています。

 

② 業績等条件が付されているケースでの割当て等に関する会計処理

役員向け株式交付信託は、業績連動型報酬として、一定の業績を達成しないとポイントを付与しない等、ストック・オプション会計基準にいうところの「業績条件」(業績等条件)が付されるケースがあります。

業績等条件は、信託期間に対応する企業の中期経営計画等の売上高、利益等の達成率や、信託期間に対応する一定期間経過後の企業の株価等による業績指標の達成率に応じて、役員等に割り当てられるポイントを段階的に設定する場合等があります。

業績等条件を満たすか否かが未確定の間は、業績等条件が満たされる部分を各期末日 (四半期決算日を含む。)に見積もって引当金の計上を行うことになるものと考えられます。

 

③ 信託終了時に信託に残存する自己株式の取扱い

役員向け株式交付信託においては、信託終了時に信託に残存する自社の株式については、全て企業が無償で取得し、取締役会決議により消却することを予定していることが多いようです。

これは、 業績未達成であるにもかかわらず、対象となる取締役に業績未達成部分の株式を交付することは業績連動報酬の趣旨に反するための措置であり、信託終了時に信託において株式の売却等により生じた余剰金を企業に帰属させることを目的としたものではないと考えられます。

この場合、企業は無償で取得した自己株式を株式数のみ増加させ、その消却時に株式数を減少させることになります。

 

信託では、企業に株式を無償譲渡することによる株式譲渡損が生じますが、総額法の適用により、当該譲渡損をどのように取り扱うかが論点となります。

実務対応報告第30号において、必ずしも会社と信託を一体と捉えている訳ではないことと整合的に考えれば、企業は決算時に当該株式譲渡損を取り込み、企業の損益計算書上、費用計上されるのではないかと考えられます。

なお、これらの会計処理は、一般的な事後交付型の自社株型報酬における会計処理と相違が生じている可能性があります。

この点、確かに信託を用いている特殊性(信託が市場から自社の株式を取得し、法的に自己株式ではないものを役員に交付する仕組みとなっている点を含む。)に起因するものではあるものの、事後交付型自社株型報酬制度全体の整合性を図る観点からは、会計処理における検討とともに、会社法上も信託を会社と一体とみて自己株式(自社の株式)に係る規定が適用できるような改正が可能かどうかに係る検討が行われる必要があるものと考えられるとしています。

 

また、役員向け株式交付信託において、その終了時に、信託に残存する自社の株式について、企業が無償取得するのではなく、当該株式を換金して、第三者へと寄付するようなスキームとなっているケースもあります。このような場合、従業員向けのスキームにおける従業員への分配と類似してはいるものの、労働等サービスの提供に対応して金銭が交付されるものではありません。

このため、信託で計上した株式売却損益を総額法においても損益で認識するとともに、売却価額と同額の費用(寄付金)を計上することになると考えられるとしています。

 

4.信託等の事業体を用いるスキームの場合の連結上の取扱い

実務対応報告第30号第4項の取引を実施する企業は、信託について子会社等に該当するか否かの判定を要せず、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上、そのまま引き継ぐものとされていることから、役員向け株式交付信託について実務対応報告第30号に基づく会計処理を行う場合、 同様の取扱いになると考えられます。

株式報酬型ストック・オプションの論点~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

株式報酬型ストック・オプションの論点

1.スキームの概要

株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)とは、権利行使価格を1円に設定した株式報酬型のストック・オプションのことです。

株式本体部分について報酬として享受することができます。

株式報酬型ストック・オプションは、古くから株式を使ったインセンティブ報酬とし て、役員退職慰労金の後継制度などで多く利用されています。

権利行使時に所得税が課税されるため、インサイダー等で株式の売却を制限され、給与課税の税率も高い在任時行使の設計は余りされず、株式の売却制限がなく、税率の低い退職所得課税として取り扱われる退任時行使の設計が多くなっています。

また、権利確定条件として業績条件が付与されるケー スもあり、この場合、一定の業績を達成しないと新株予約権の一部又は全部を行使することができません。

権利行使価格を現状の株価水準を基礎として設定したいわゆる通常型ストック・オプ ションは、その値上がり益のみ享受することになりますが、株式報酬型ストック・オプションは株式本体部分も報酬となるため、インセンティブ効果は高くなります。

一方で、発行時の払込みが1円であるため、希薄化のデメリットは強くなります。

なお、毎期一定額相当を付与する制度設計を前提にすると、株価が下落するほど、付与数が増えるという逆インセンティブ効果がある点も特徴として挙げられます。

 

2.税務上の取扱いの概要

株式報酬型ストック・オプションは、個人の所得税課税がされる権利行使時と同じタ イミングで法人税法上は損金算入されていましたが、2017 年(平成 29 年)度税制改正により、退職給与に該当するケースを除き、事前確定届出給与又は一定の業績連動給与に該当しなければ損金算入は認められないこととなりました。

 

3.会計処理上の論点

ストック・オプション会計基準に従い、発行時の公正な評価額を付与日から権利確定 日にわたって費用処理を行うことになります。

なお、権利確定条件として業績連動条件が付されている場合、いわゆる業績連動型のストック・オプションとなり、株価上昇のみならず、業績向上へのインセンティブも付した形のストック・オプションとなります。

このようなストック・オプションについては、業績条件が達成されないことによる失効数を見積もって、費用処理を行います。

 

4.課題

ストック・オプションについては、他のインセンティブ報酬の会計処理と異なり、ストック・オプション会計基準という明確な定めが設けられています。

しかしながら、次々と新たな報酬スキームが生み出されていく中では、インセンティブ報酬の会計処理全体に関して、整合的に会計処理が定められるべきであり、その中で現行のストック・オプション会計基準についても、必要な見直しが行われるべきではないかと提言しています。

特に、未公開企業の取扱いや、現行基準上では明確ではない一部の権利確定条件の取扱いなど、具体的に検討すべき論点は少なくないのではないかと提言しています。

 

違法行為を見つけたり疑わしい場合に監査人はどう対応すべきか~「違法行為への対応に関する指針」が制定されました

日本公認会計士協会は、平成30年4月に、「違法行為への対応に関する指針」の制定及び「職業倫理に関する解釈指針」の改正を行ない、同年7月の定期総会で、「倫理規則」の改正を行いました。

 

この指針は、財務諸表監査において違法行為等に気付いた場合に、その対応を定めたものです。それでは、その内容を見てみましょう。

 

改正の主な内容

1.倫理規則

会計事務所等所属の会員が、専門業務を実施する過程で違法行為またはその疑いに気付いた場合には、「違法行為への対応に関する指針」に従って対応すべき旨の規定を行いました。

 

2.違法行為への対応に関する指針

違法行為とは、「故意もしくは過失または作為もしくは不作為を問わず、依頼人、その経営者、監査役等、従業員等又は依頼人の指示の下で働く委託先業者その他の者によっておこなわれる、法令違反となる行為」を言います。

 

下記の法令が、例示として挙げられています。

不正、汚職及ぶ贈収賄

マネー・ローンダリング、テロリストへの資金提供及び犯罪収益

証券市場及び証券取引

情報保護

税金および年金にかかる債務及び支払い

環境保護

公衆衛生及び安全

 

 

財務諸表監査に従事している会員の場合の具体的対応を見てみましょう。

1.違法行為が発生した、もしくは発生しうると認識し、またはその疑いを持った場合、適切な階層の経営者と(及び必要に応じて監査役等)と協議します。

 

2.経営者または監査役等が対応策を講じているか、法令上の責任を理解しているかを検討します。

 

3.経営者または監査役等の対応の適切性を評価し、文書化します。対応によっては、業務の事態・契約の解除を行う場合があります。

 

財務諸表監査業務に従事する会員は、このほかにも、金融商品取引法による規制当局への報告に関する法令の遵守や監査基準委員会報告等に従って、不正を含む違法行為への対応、監査役等とのコミュニケーション等が要求されます。

 

留意事項

違法行為を見つけるために、追加的な手続きの必要はありません。違法行為対応指針は、違法行為又はその疑いを積極的に見つけに行くことは求めていません。

専門業務の過程において違法行為又はその疑いに気付いた場合のみ、指針に則った対応が求められます。

 

監査基準委員会報告書250「財務諸表監査における法令の検討」との関係ですが、違法行為対応指針は、監査基準委員会報告書250に対して追加の手続きを要求するものではありません。

 

監査基準委員会報告書250では、違法行為又はその疑いが財務諸表に重要な影響を与えているかどうかという点に着目しています。

一方、違法行為対応指針は倫理規則における行動規範の観点から、倫理上の責任を明確化し、会員がどのように対処すべきかを規定したものです。公共の利益に対してより広範囲に影響をもたらすかどうかについても着目しています。

インセンティブ報酬の類型~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

インセンティブ報酬の類型

インセンティブ報酬とは、自社や親会社等の株価や業績に連動して、株式数又は報酬額が決定される報酬であり、役員等に対して株価上昇や業績向上へのインセンティブを付与する性格の報酬です。インセンティブ報酬と呼ばれる報酬には、以下のような類型があります。

 

なお、各制度の説明に含まれる「業績等条件」とは、ストック・オプション制度における業績条件(ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、株価を含む一定の業績の達成又は不達成に基づく条件をいう)と同様に、業績等の達成によって権利が確定するような各報酬制度における条件を指しています。

 

1.株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)

権利行使価格を1円に設定した株式報酬型のストック・オプション(制度)

 

2.業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)

業績条件を付し、株価上昇のみならず、業績向上へのインセンティブも付した形のストック・オプション(制度)

 

3.権利確定条件付き有償新株予約権

企業がその従業員等に対して権利確定条件(業績条件など)が付されている新株予約権(ストック・オプション)を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む報酬制度

 

4.時価発行新株予約権信託

創業者(オーナー)等が信託の委託者となり、前述の権利確定条件付き有償新株予約権と同様の新株予約権を信託に対して有償で発行し、規程に従って従業員等に付与されたポイントに基づき、当該新株予約権を従業員等に付与する形の報酬制度。

 

5.株式交付信託

自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員等に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬制度。

役員向けに導入されるものは、「役員向け株式交付信託」などと称されている。

 

6.事前交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)

譲渡制限を付した株式を事前に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬制度。

 

7.事後交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック・ユニット)

株式を、一定の勤務対象期間後に交付する形とした株式報酬制度。

通常は、譲渡制限のない株式を交付するものであるが、本研究報告では便宜的に「事後交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック・ユニット)」という名称としている。

 

8.初年度発行型(事前交付型)パフォーマンス・シェア

中長期的な一定の業績等条件の達成によって譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を、対象期間の開始時に交付する形態の株式報酬制度。

 

9.業績連動発行型(事後交付型)パフォーマンス・シェア(いわゆるパフォーマンス・ シェア・ユニット)

中長期的な一定の業績等条件を達成した段階で報酬としての株式(又は株式数に応じた金銭)が交付されるような株式報酬制度。

 

10.パフォーマンス・キャッシュ

一定の業績等条件を達成することで報酬額が決定する現金報酬制度。

 

11.ファントム・ストック

仮想的に株式を付与し、その配当受領権や株式の値上がり益を事後的に現金で受領する報酬制度

 

12.SAR(株式増価受益権。ストック・アプリシエーション・ライト)

仮想行使価格と報酬算定時の株価との差額を現金で受領できる報酬制度。

 

これらのうち、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する企業会計基準等において会計処理が明らかにされているもの、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)、業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)、(従業員向けの)株式交付信託及び権利確定条件付き有償新株予約権です。

その具体的な会計処理は、別稿で解説しています。

 

業績連動型報酬の会計処理~インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(公開草案)より

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は平成30年12月14日付で会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案は、このインセンティブ報酬の会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたもので、会計上の論点と会社法の関係、インセンティブ報酬に関する会計上の論点、スキーム別の会計処理上の論点等について考察がされています。

 

「業績連動型報酬」の会計処理

業績連動型報酬とは、一般に売上や利益、各種経営指標や株価などと連動して支給額が 決定される報酬です。業績連動の対象期間は、単年度の場合もありますが、複数事業年度にわたるケースもあります。

 

固定報酬と比較すると、一定期間終了後にならないと支給額が確定しないという特徴があります。

 

業績連動型報酬は会計基準において直接定義付けはされていませんが、ストック・オプション会計基準において、「業績条件」に関し「ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、一定の業績(株価を含む。)の達成又は不達成に基づく条件をいう。」と定義されています。

 

一般的な業績連動型報酬の考え

業績連動型報酬は報酬の一類型であるため、通常の報酬と同様に、職務執行の対価として費用計上を行うべきです。

報酬の対象者が業績連動期間中に業績目標達成に向け勤労意欲を高めることに鑑みますと、各期間の業績と報酬は対応関係にあると考えられ、基本的には期間に応じた費用計上を行うことが理論的と考えられます。

 

企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」において、業績連動型報酬は職務執行の対価として費用処理することが適当とされています。

 

業績条件の達成見込みの変化により支給見込額が変動する場合には、基本的に会計上の見積りの変更として、変更があった期以降の財務諸表においてその影響を反映させることになると考えられます。

 

期末日をまたぐような一定期間の成果に基づいて支給額が確定されるような場合には、期末日までの実績を踏まえた成果の達成可能性を合理的に見積もったうえで、支給対象期間に対応して当期の負担に属する金額を引当金として計上することになると考えられます。

 

ストック・オプションにおける業績連動型報酬の取扱い

ストック・オプション会計基準においては、新株予約権の付与時に「公正な評価単価×付与数」という算式により公正な評価額を算定し、費用計上額のベースとしています。

 

公正な評価単価は原則として事後的に見直しが行われることはなく、業績の達成又は不達成による付与数の変動は、その失効数を見積もることにより調整されます。

 

失効数による調整がされることの根拠等について、ストック・オプション会計基準の結論の背景等では特に明示されていませんが、IFRS 第2号においても、ストック・オプション会計基準と同様に、業績条件を満たさない可能性を付与数で調整をする定めとなっています。

業績条件の調整の手法としては、評価単価に業績未達の可能性を織り込むという方法も考えられますが、評価単価に織り込む手法を採用しなかったのは、株式市場条件以外の業績条件を付与日の公正な評価単価に織り込む困難さが理由とされています(IFRS 第2号 BC216 項及 び IG9項)。

 

なお、業績条件の達成可能性が変動したときに事後的に時価を再評価した場合には、「付与日」測定という原則的な定めから、事後的な(業績条件以外の)時価の変動も反映されてしまうことになるため、適切ではないと考えられます。

業績条件の達成見込みに変化があった場合は、失効数の変動を通じて、一般的な場合と同様に会計上の見積りの変更として取り扱われます。

 

自社株型報酬における業績連動型報酬の取扱い

自社株型報酬においても、契約の時点において自社の株式の交付とサービスの提供が等価で交換されていると考えられるため、自社株型報酬を前提にすると、契約の時点において株式の公正な評価額を測定し、以後の再測定は行わないとすることが適切と考えられます。

 

仮に契約時以降の時点で測定を行うと、契約時以降の株式の公正な評価額の変動が会計処理に反映されてしまうことから、適切ではないと考えられるためです。

また、費用の認識については、契約の時点で算定された株式の公正な評価額を、対象となる勤務期間にわたって各期に認識することになると考えられます。

 

このとき、費用認識時に業績達成条件をどのように反映させるかが論点となりますが、ストック・オプションと同様に、業績達成条件を公正価値に織り込むのは困難と考えられるため、交付数で調整するのが適切と考えられます。

すなわち、業績未達による失効数を織り込んだ交付数で算定を行うことになります。

 

これは、IFRS 第2号の持分決済型の株式に基づく報酬取引と基本的には同様の考え方となっています。 なお、業績等条件の達成見込みに変化があった場合も、ストック・オプションと同様に、失効数の変動を通じて、会計上の見積りの変更と取り扱うことが適切です。